殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

ブランケットを買いに

この膝にちょうどいい大きさの浪さんのブランケットを売ってくださいな、なんて、買ったところで麗しすぎてもったいなくてきっと使えないと思われる、ニトロのサンファン冬コミグッズのブランケットだけれど。

白浪&赤浪&聆牙のブランケットが一枚でも多く売れれば、もしかしたら冬まだ寒いワンフェスで、殤さん&太歳&目録のブランケットが販売されるかもしれない、霹靂社さんだけでなく、ニトロさんもペアグッズをやってくれるかもしれないと期待を込めて、冬コミにお買い物に行くことにした。

思い立ったのが急だったので、リストバンドも現地調達なのだけど、たしか企業ブースだけなら何もいらないのだったか。先に青海展示場の方へ行って、売り切れてなかったらブランケット買って、そこから東京国際展示場行って、当日のリストバンド買って入場、、、、買えるかな、売り切れてないといいな、リストバンド。

買えたら殤浪のご本と、狂狷さんのご本があるというのでぜひ買いたい。こちらも売り切れてないといいなと思うけれど、こればかりは先にひざ掛け買いに行くのと、どれだけその後入場まで時間がかかるか読めないので、最悪はあきらめる。作者様に、この世に殤浪作品を生み出してくださってありがとうございます、とお伝えできればそれでいい。

ずっとオンライン活動しかしてこなかった自分には、ご本を出す苦労はわからないけど、多忙な日常の合間を縫って、締め切りのある中でクリエイトする、ていうのが大変というのはわかる。殤浪を形にしてくれて、ほんとにありがたい。

 

ブランケットを買いに、というタイトルを打ったところで、雪山で暮らす母ぎつねの母上と、子ぎつねの浪浪、町で帽子屋を営む殤さんの妄想がでてきたのでメモ。

 

母狐と子狐の暮らす山にも厳しい冬がやってきました。初めて見る雪のまばゆさに目を刺され、びっくりしたのもつかの間、子狐の巫謠は雪の上を駆けまわっていました。まもなく洞穴へ帰って来た巫謠は、白狐である母に、濡れて赤くなった手を差し出しながら言いました。

「母上、手が冷えました。手がちんちんします。」

「至高の演奏に辿り着けば、すぐ温もりを取り戻すであろう。歌いながら琵琶を奏でるのです、巫謠。」

「は、はい、母上。」

そうは言っても可愛い我が子の大切な手です。白狐はその手に息をはあっとかけ、自分の手でやんわりと包みました。

(このまま霜焼けになったら、天上の音色を奏でること叶わぬ。夜になったら毛糸の手袋でも買い求めよう。)

 

しかし夜になり、町へ行こうとした白狐の足取りは、過去に町の王宮でとんだ目にあったことを思い出して止まってしまいました。やむを得ず、白狐は巫謠の片手を人間の手に変えました。

「この手は、なんですか? 」

「それは人間の手だ。よいか、巫謠。街で帽子屋を探したら、扉の隙間から姿を見せずにひとの手だけを差し出して、この手にちょうどいい手袋ちょうだい、と言うのだ。しかし決して狐の手を出してはならぬ。ひとは狐を捕まえ、檻に入れる恐ろしき生き物ぞ。」

「わかりました、母上。」

子狐の巫謠は初めて訪れる町で、迷いながらもなんとか帽子屋を探し出し、その扉をトントンと叩きました。

「おう、お客さんか? 開いてるぜ。」

そんな声と共に、扉が大きく開きました。あ、姿を見られてしまう。どうしよう。子狐は人間に捕まってしまう恐ろしさに体がすくみ、その場にうずくまって動けなくなってしまいました。

店主の帽子屋、殤不患は、扉を開けた先にいたのが狐の子供だったのに驚きましたが、小さくなってぷるぷると地面で震えているのを見て、わきの下に手を入れてそっと持ち上げました。

「どうした、狐っ子。帽子を買いに来たのか? うちの店じゃ、お前さんがかぶれるような、小さい帽子は作ってねぇんだがな。」

子狐を怖がらせないような、優しい声でした。

(わからない。本当に、人間は恐ろしい生き物なのか。目の前のこのひとは、ちっとも怖いひとに見えない。)

子狐に視線を合わせて、微笑んでくれているこの男は、とても優しそうに見えました。

巫謠は勇気を振り絞って言いました。

「この手にちょうどいい手袋、下さい。」

「代金はあるか? 」

こくりと頷き、子狐は母の白狐から貰った銅貨を、白髪交じりの黒髪の店主に差し出しました。子狐を店内にある暖炉の前の椅子に座らせ、その銅貨をあらためた店主は、面白そうにくつくつと笑いました。

「枯れ葉の銭で人を騙すかと思いきや、まっとうな金で手袋を買おうってのか。こりゃいい。そこいらの人間よりもずっと、獣であるお前たちのほうが筋が通ってるとはな。気に入ったぜ。」

殤は棚から子供用の赤い手袋を出して、子狐の小さな手にはめてやりました。そして、銅貨を手袋の上から握らせました。

「お代はけっこうだ。母さんに返してやれ。」

子狐は戸惑いましたが、銅貨を受け取りました。代わりに、手袋のお礼をしなければと思いました。

「なにかお礼がしたいです。」

「礼、礼か、うーん。」

殤は帽子づくりで忙しくしていましたが、子狐に手伝ってもらえそうなことは、店にはありません。

「それじゃ、お前がおとなの狐になったらでいい。その時にまた頼めそうな仕事があったら来てくれ。」

「わかりました。手袋、ありがとうございます。」

赤い手袋は、子狐の小さな手を包み込んでぬくぬくと温めてくれました。椅子からぴょこんと飛び降りてお辞儀をすると、巫謠は家路へと帰りました。途中、人間の母子のやりとりを見て無性に母が恋しくなり、山まで走って戻りました。

一方、母の白狐は、無事に巫謠が帰ってきたので、泣きそうになるのを堪えて、黙って我が子を抱きしめました。

「母上。ふようは、人間に姿を見られてしまったのです。でも、捕まらなかったばかりか、お金まで返してくれました。」

子狐が仔細を語ると、白狐は何度も首を傾げました。

「さように奇特な人間がいるものか。ひとの世はまったくわからぬものだ。」

 

数年後。獣の数年は人間にとってのそれよりも、早く時が流れます。子狐だった巫謠は、沈む夕陽を切り取ったような赤毛の、若い狐になっていました。母である白狐と離別し、一匹になった巫謠は、あの帽子屋の言葉を思い出しました。

狐の姿で行っても、殤の仕事の役に立たないかもしれない。そう思った巫謠は、変化の術ですらりとした、美しい青年の姿になりました。前髪を上げて、長い髪をまっすぐに降ろし、白い着物をまといました。

帽子屋は、以前と同じ場所にありました。扉をトントンと叩くと、店主の殤の声がしました。

「おう、お客さんか? 開いてるぜ。」

「客ではない。なにか、俺にできる仕事はあるか。」

殤が驚いて扉を開けると、そこにいたのは長い夕陽色の髪を垂らした若い男でした。

「布を、正確に測ったり、切ったりはできるか? 」

「……やってみよう。」

 

青年は不器用でしたが、言われた通りに一生懸命に修行をする、実に真面目な男でした。そのまっすぐで清らかな気質は、すぐに殤の気にいる所となりました。

気がつくと、青年は殤の家に住みついていて、朝のスープを作ったり、昼には工房で帽子の飾り羽を整えていたり、夜には一緒にベッドの中で過ごしていたりしました。

殤は青年がひとではないと気づいていました。初めて深く交わった日の朝、隣を見ると、先に気を失うように眠りについたはずの巫謠の姿は、一匹の赤狐に変わっていたのです。その赤狐の首には、見覚えのある赤い小さな手袋が、首飾りのように紐でつながれてかかっていました。それは数年前に、狐の子供に渡したものでした。

(あの時の狐っ子が、まあ美人に育ったもんだ。狐の筋の通し方ってのはつくづく面白ぇな。)

 

人と狐の時間の進み方は違います。人の寿命に比べ、狐のそれはあまりにも短いのです。寿命の差を気にせず、今を精一杯楽しんで幸せに生きよう。そう誓い合ったふたりでしたが、変化の術を多用して生きて来た狐の命の灯火は、尽きようとしていました。日に日に弱っていく巫謠を抱きしめ、殤はそれまですがったことのない神にまで祈りました。彼の人生は、もう、この狐なしには考えられないほどでした。

「不患。」

「……なんだ? 」

「そんな顔を、しないでくれ。」

「お前って奴は。ずうっとなんの我儘も言わずにいたくせに、今になってねだるのか。」

力の入らない、白い指をとって、握りしめます。かつて彼の母狐がそうしたように、熱の乏しい指先にはあっと息をかけて、温めてやりました。

「不患のくれた手袋、本当に、あたたかかった。」

小さな赤い手袋はとうにつけられない大きさでしたが、今でも狐は肌身離さず大事に持っていました。手袋の代わりに、今は殤の大きな手の平が、巫謠の手を冬の気配から守っています。

それでも、季節は巡ってしまうもの。初めて子狐が手袋を買いに来たのと同じ、雪の日の深夜でした。

腕に抱いていたその鼓動がゆっくりと止まり、人の姿が獣のそれに戻っていくのを、約束した通りに懸命に笑みを作りながら、殤は見守りました。

「おやすみ、巫謠。」

 

 

その時でした。赤毛の狐の体が、雪のしぶきを浴びたようにキラキラと光り始めました。一本だった尾が、九本に枝分かれし、なんとしっぽをつけたままで人間の姿に戻っていきます。長く降ろしていた髪がふわりと宙に浮いて、三本の三つ編みに編みあがっていく様子を、殤はただ唖然と眺めていました。

「一体、なにが……、」

巫謠はぱちり、と開いた目をあちこちにさ迷わせました。

「そういえば昔、母上が言っていた。我が家系は遥か昔より脈々と継がれる ”ようこ” の家系だと。」

「ようこ……? 妖狐か!? 」

妖狐とは、自然界での修行や、日月の力を得た狐が、変化術や仙術を得るようになったという、怪の一種です。

「お前、普通の狐じゃなかったのか……。」

「母上は俺の素質について、何もおっしゃらなかった。でも、こうして力を得たところをみると、俺もまた母上と同じ妖狐だったようだ。」

幼少時から母の白狐は、巫謠にそれは厳しい修行を課していました。今思えば、普通の子狐に対して強いる行ではなかったのです。

人型になってもゆらゆらと揺れるままの九本の尾には、ただならぬ妖気が感じられました。

「今の俺は、魔性を宿した本物の化け狐だ。それでもお前は一緒にいてくれるか? 」

どこかしょんぼりと肩を落としながら、新しい姿に生まれ変わった巫謠は恐る恐る殤に尋ねました。

「ったりめぇだろうが。妖狐ってーのは何百年も生きるんだろ。バケモンだろうがなんだろうが、生きてるだけで万々歳だ。」

殤はそう言って、巫謠を強く抱きしめました。

人の姿を保ち続けるには、妖狐と言えども寿命を大きくすり減らします。それからもふたりは仲良く帽子屋を営み続け、ちょうど同じ年の同じ季節に、仲良くこの世から旅立ったのでした。

         おしまい。