殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

不思議な声

 本当なら、本当なら二十九日が西幽玹歌の円盤発売日だったのに、とあきらめ悪くも考えてしまうGWの入り口。映画よかったな。最初から最後まで浪さんというか、浪さんのボイスアクター西川さんの歌尽くしだった。

西川さんはかなり昔から活動されているけれど、実は過去にあまりお歌を聞いたことがなく、じっくり聞いたのはサンファン一期主題歌が初めてだった。

西川さんの歌声で昔聞いて、好きだなと思ったのは、「LOVE LOVE あいしてる」でカバーされていた「GET WILD」。この方の歌い方っていうのはどっちかというと腹筋を多用して全身のバネで歌うイメージだったので、落ち着いたアレンジのせいか肩の力を抜いてさらっと歌ってらして、おお、いいじゃないか、と。

あとは、歌い方とか声質が、Iron Maidenのブルース・ディッキンソンぽいな、とはずっと思っていたかも知れない。Aces Highの時のブルース。パフォーマンス込みで、日本でカバーできるのは、西川さんしかいないだろうなというくらい。「Blood Brothers」歌って欲しい。

 

自分の好きな男性ボーカルの声色というのが、好みにジャストフィットする幅がめちゃ狭くて。わかりやすいとこで日本だと古くは「STAINLESS NIGHT」の時のデーモン閣下とか、「Voiceless Screeming」「Say anything」の時のToshiさんとか。洋楽だとRIOT所属時のトニー・ムーアだとか。ハイトーン系統の男声がとにかく好きでよく聞いていて。

うちにある男性ボーカルのCDやダウンロード曲の中では、西川さんの声は低音の部類に入るくらい。だから西川さんの、浪さんの歌というのは、透明ではないけれど分厚くて複雑で、自分の中では不思議な声で、新鮮でもある。

 以下は浪さんにどうしても歌ってほしい歌の妄想。(中のひとの曲じゃなくてすみません。)

 

頭部に鬼面のついた琵琶を爪弾きながら、相棒がなにかを口ずさんでいる。

洞窟を仮宿とした旅の野宿で、夕飯を終えて眠りにつくまでめいめいに過ごす間。浪はそばにあった大樹に背をもたれていた。そのまま横にならずに眠る気かと案じたが、それはどうやら演奏を楽しむ為だったらしい。

どこの国の言葉か。西幽や近隣諸国の言葉ではなく、聞こえる単語からは意味が汲み取れない。唇から漏れる音は、いつも路銀の足しに披露する歌よりも音程が高い気がすると、楽の道に造詣のない殤でもわかった。

いつもは歌や演奏の邪魔をしたりしない殤だったが、節回しに哀切の響きを感じて、つい浪の視界に入る場所までにじり寄ってしまった。目線がつ、と移動するが、近寄られても気にしないと決めたのだろう、浪はそのまま聞きなれない異国の歌を歌っている。

(……寂しそうな旋律だ。)

歌に気持ちが入るのか、表情も曇っている。そんな顔をさせたまま放っておくことなどできなくて、殤はひとくさり歌が途切れたところで、声をかけた。

「西幽の歌じゃねぇな。どこかで習い覚えたのか? 」

「……わからぬ。」

「はぁ? 」

どこで覚えたのかわからない歌など、歌えるものだろうか。疑問に思って聞き返した殤に答えを寄こしたのは彼の琵琶だった。

「旦那も不思議に思うだろ? コイツの中にはどこか別の世界に繋がる楽音の扉があって、そこから新しい歌が流れてくるんだ。習わずとも歌える。おさらいせずとも思い出せる。手が勝手に動いて曲を紡ぎ、喉が自然と詞を編み上げるんだ。」

「へえ、そういうのも、異能ってやつなんだろうな。」

殤が相槌を打つ。が、浪は琵琶の説明がしっくりいかなかったのか、首を傾げていた。

「さっきの歌も、最初から知っていたのか? 」

「え、ああ。」

彼には珍しい高音の歌。まるで、どこか泣いているような。

「異国の詞は俺にはわからねぇが、どんな意味の歌なんだ? 」

遠いところを見るような目をしながら、浪が琵琶の弦を撫でる。

「俺も、知らぬ。」

歌い手ですら、意味を知らない詞の歌を。意訳したのは彼の分身たる魔琵琶だった。 

「ええと、な。声なき叫びっていう歌さ。自分の居場所に迷って途方にくれながらも、内側に触れてくれるひとを、待っている。そんな相手を見つけ出したら、一歩を踏み出せる。そんな歌だ。」

「……わかるのか? 」

問いながらも、浪にはすんなりと頷ける部分があった。

「そりゃオレは、お前の声から生まれたからな。お前の声が紡ぐ物語なら、絵巻のように見えるってもんだ。」

 器物にもともと宿っていた、ぼんやりとしていた付喪神の輪郭に、はっきりとした形と格とが与えられた。それを励起して与えたのは目の前の赤毛の主の魔力だった。

「……俺は、待っているのか。」

琵琶にだけ聞こえる音量の囁きに、聆牙もまた普段のけたたましさが嘘のように、声をひそめて返す。

「正しくは、待っていた、だな。もう出会ってるよ。」

座った大樹の影から浪が顔を上げれば、腰を屈めて案じるようにこちらを窺う相棒の姿。

「熱心なのはいいが、そろそろ寝ようぜ。明日も早い。」

手を伸ばせば、手甲のついた太い指の手が伸びて来て、浪の繊細な白い指先に重なる。重ね合った手の平に力が入り、握りしめられた後に上体を引き上げられた。

 一歩を、踏み出す。手を引かれるままに足を進めれば、ぽふりと殤の腕の中に招かれた。辿り着いた場所は、至上の国。優しい楽園。愛を、教えてくれたひと。

彼の声なき叫びは、ちゃんと届いていた。猫のように胸元にぐりぐりと額を押し付けて、浪は安堵の吐息をもらした。