殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

だんなさまの音 参

ぎし、ぎししっ。

ぎし、がっ。

 

最初浪は、それが何の音なのかよくわからなかった。が、音の出どころを追って行けば、洗面台で、旦那様が白髪交じりの黒髪をブラシでといている。

長くてさらさらで、肌に触れるとひんやりとしてどきりとする。浪は殤の黒髪が大好きだった。

が、いつもはさらさらのその髪が、ブラシでとくとひっかかって音がするくらいに荒れている。ちょっと枝毛もできている。ちょうど日差しが強くなってきたから、帽子も何もかぶらずに外回りの営業に出て、紫外線にやられたに違いない。

鏡の前でせっせと髪をといている殤に気づかれないよう踵を返し、キッチンへと急ぐ。

ええと。髪質をよくする食べ物は。本を取り出し、目当てのページを辿る。

たんぱく質が豊富に入っているもの。卵。牛乳。

既に夕食の後だから、明日の朝にしようと決めて、念のために冷蔵庫を覗く。

良かった。卵はいつもたくさん買ってある。

 

翌朝。ごはんと味噌汁が並ぶはずのダイニングテーブルには、珍しく、トーストとチーズオムレツ、焼いたベーコンに、ホットミルクが鎮座する。

浪は知っている。殤は朝は、ごはんを食べるほうが好きだと。トーストでは腹持ちが悪いと言っているのも、聞いている。

けれど、並べられた朝食について、作ってもらったものに対して、やっぱり米が食いたいという旦那様ではない。ちょっと不本意そうに、珍しいな、と呟いて、黙って食べてくれる。

 

ごめんなさい。

 

たとえば、鮭の切り身なんかのほうが好きなのは、重々承知しているのだけれど。ずっと魚を食べていないから、そろそろ食べたい時期が来てるんじゃないかと、察していたけれども。

浪は心の中で謝りながら、自分も同じ朝食を黙って食べる。

身勝手だと知っていて。殤の髪につやつやに戻って欲しくて。あんな風に、ぎしぎしとしたきしむような音は立てて欲しくないのだと。

互いに何も言わないまま、言えないまま。静かに朝食は終わる。