殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

あなたと温かいお茶を

東離公式Facebook、最近では睦っちゃんと殤浪さんのバードウォッチングコラで、いつものごとくなぜバードウォッチング、と心の中で盛大にツッコミを入れさせていただいたばかりなのですが。

殤浪ドリンク! 烏龍茶と紅茶! え、台湾の霹靂店で発売するんですか?!って思いっきり早合点して喜んだ後に、よくよく読んだらハッシュタグに「此商品並無實際販售」って書いてあった……。てっきり、売られるのだと信じてしまったよ。

寒くなってきたから温かい飲み物が美味しいね。本当に発売されたら良かったのに。

 

◇◇◇◇◇◇

 

初秋の公園を、ゆっくりとふたりで歩く。高名なアーティストである浪が久しぶりに取れたオフの夕暮れ、買い物に行きがてら遠回りして散歩をしないか、と彼の年上の恋人が誘いをかけてきた。

夏の終わりから音もなく冷え始めた風が、殤の袂を揺らす。今日の恋人は雀の頭のような色合いの着物に、同色の羽織を袖を通さず肩にひっかけていた。普段は洋服の浪も珍しく倣って、臙脂の着物を着、羽織がわりに薄手の赤無地のストールをかけている。そこだけ見れば時代を遡ってしまったようなふたりの様子だが、忙しくひとが行きかう平日の暮れには意外なほど、人目をひいていなかった。

「もうすっかり秋の気配だな。」

「……ん。スタジオじゃ、わからなかった。」

そう口数も多くないままに、寄り添って歩を進める。どこまで歩くか、いつ切り上げるかは決めていない。言葉にせずともお互いの胸の内には信頼が満ちている。同じ景色を見て、同じ空気を吸っている。ただそれだけのことなのに、ふたりでひとつの塊みたいな不思議な感じを覚えていた。

やや見上げる高さにある恋人の顔をふと覗き込み、浪はどきりとした。

(穏やかな、顔。)

夏から積み重なったぶん、秋にはまた好きが増えていた。冬にはきっと、もっと増えている。咄嗟に濃い感情が噴き出して、ほんの数cm、傍らの殤にはバレないくらいだろうほどの距離をつめた。散歩楽しい、オフを一緒に過ごせて嬉しい、その着物かっこいい、穏やかな顔をして、一緒の散歩を楽しんでくれる殤が、本当に、好きで。この秋も、いっそう。

全部まくし立てられたら楽になるだろう脳内の思考を押さえ込んで、隣を歩く殤の焦げ茶色の肩に、猫のように額をすり、と押し付けた。

 

「どうした? 」

「……うん。」

 

鼻をひとつ啜った。季節の変わり目で感傷的になっているのだと思ってくれればいいのにな、と、浪は甘える。ひとを好き過ぎて道端で勝手に泣けてくるとか、殤に出会うまでは知らなかった感情だった。

 

芸術家という種族には繊細で神経質なところがあると疑わない殤は、年下の恋人の感情の揺らぎにもたじろがない。いつものことだとぽんぽんと頭を撫で、ちょうど近くにあった木製のベンチに座らせる。

「ちょっと待ってな。」

目をやった先にはカフェらしき移動販売車があった。適当に飲み物をふたりぶん買い、こぼさない程度に小走りで急いで戻る。

「烏龍茶と紅茶、」

どっちにする? と聞くよりも早く、浪の手は烏龍茶をとっていた。少しずつ飲む為についているだろう白い蓋を取り去り、ふうっと吹いては少しずつ飲み込む。温かさが胃に落ちて、じわりと腹部から全身を巡り、豊かな香りと茶色の水面に、こみ上げていたものが落ち着いていく。色。この色は殤の音の色だ。

「……おいしい。」

「おお。」

殤もまた蓋を外して、紅茶の赤い色合いと柑橘系の香りを味わっている。

紅茶も烏龍茶も、元々は同じ茶の樹からとれるお茶である。加工の過程で異なる茶になるというのが、これだけ風味の違いを感じると不思議ですらある。奇しくも今日の二人の着物が、似た色なのを殤は思い出す。

(違った味と、色と香りと。だが元々の根っこはおんなじだから、添えたのかもな。)

年も大きく違う、仕事も違う。趣味嗜好も異なっている。なぜだかそれでも惹かれあった。二人で幾つも思い出を積み重ねて、今じゃ当然のように揃いで着物を着て、元は同じ茶葉の茶を隣同士で啜っている。

「落ち着いたか? 」

浪の持つ紙コップの半分ほどが消えたのを見て殤が聞けば、浪はやや恥ずかしそうに俯きながら、首を振った。

「いや。」

「ええ? 」

「お前と出かけられて、嬉しくて、落ち着かない。」

紅茶のように色づいた目元の、たかが散歩ひとつでそこまで喜んでくれている恋人の可愛さの、言葉にし尽せぬ感情を想いを発露を。

まだ熱さの残る紅茶を一度に飲み干し、空いた手で恋人の片手を握りしめることで、殤は代わりにした。

「不患! 」

「どうせ落ち着かないんなら、何をしようと変わらねぇだろ。」

ああまたひとつ、好きが積み重なる。握られた手と、あたたかな烏龍茶を狼狽えたように交互に見つめて、浪の中で秋の思い出が増えていく。

そしてそれは、冬から次の春まで続くオフの日の散歩の定番となったのだった。