殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

なーにが欲しいというの

三期、キャラクターが増え、尚且つそのキャラクターのバックグラウンドが過去話で確立されているせいなのか、情報量の多さが半端ない。ここにさらに予告で出た新キャラが加わったら、既に七話消化済になるのに残り五話でどうするんだろう、と思ってしまう。そこは三期で決着つけず、四期まで引っ張るんだろうか。

 

七話のMXのあらすじで出てくる、照媛のジモティー仲間のベルたん。タイトルが魔界伯爵、というのでシリアスそうな予告の中身に反してちょっと笑ってしまった。中華系武侠ファンタジーだと思ってたら、この世界の魔界、西洋風の爵位なんてあるのか。まあ、魔王がいるんだから、臣下に伯爵がいてもおかしくないんだろうな。一期の武侠物寄りの硬派なストーリーから、まおう登場でだいぶ霹靂さん寄り、なんでもありなファンタジックな世界観になってる。対象年齢が引き下がった、というか。

 

魔界伯爵と聞いて一字違い、往年の名作、劇場版999の機械伯爵を思い出してしまった。そういえば、西幽玹歌で白ふよが酒楼で弾き語りしてるのを飲みながら聞いている客達を見て、どこかで既視感あると思ってたら。なーにが欲しいというの、わたし、それとも愛、だ。白ふよも酒場の歌姫リューズさんのように、しみじみとバラードを披露していた営業日があったかも知れない。

あらためて聞き直したら、浪→嘲風のイメソンにも聞こえる歌で驚いた。この映画は本当に今から四十年ほど前の作品とは思えないほどの大傑作で、むしろこの時がピークで今が退化してるんじゃないかと疑うくらいで。これを越えるスペース(任侠要素のある)ファンタジーを知らない。銀英伝はまた史実的で方向性が違うし。

 

浪さんの出生の謎が明かされる、とは三期放送前からささやかれていたけど、その謎解明の前にどうしても知りたい謎が。

明夫さんは二重スパイで、明日は仕事があるから今日はもう帰らなきゃ、と友人宅に遊びにきた社畜みたいな台詞を無界閣で喋ってたんですが。逢魔漏って、鏡の面に映った場所には行けるけれども、行き先を自分では選べない。そこは今後の課題だと刑亥姐さんはてへぺろっていた。じゃあどうやって、神蝗盟のふたりは、東離と西幽の間を頻繁に行き来できているんだろうか。行き先が無界閣に繋がる確率は五割、という話だが、その五割が映るのを待っていたら、運が悪い日はいつまで経っても戻れないケースもありそうで。

その場所や方法を押さえれば、殤浪捲だって安全に東離に戻って来られるのでは。この後、殤さんを追う萬将軍と婁さんと一個小隊もやって来そうだが。まさか手勢まるまる一小隊分、みんなで肩を掴んで列車ごっこして渡ってくるんだろうか。

それに外法の魔術で行き先固定と往復航空ができるんなら、魔界への里帰りルートも刑亥姐さんは作れるわけで。それはすなわち、魔族側からの侵攻ルートでもあり、それこそ明夫さん的には魔族絶許案件。だから、どうしてるんだろうと不思議で仕方がない。そこらへん、七話にはちゃんと遠征シーンも入ってるといいな。

 

◇◇◇◇◇

 

殤不患がその面妖な魔道具を白い袋から取り出した時、一同は仰天し、何故だかそこで聆牙と捲殘雲はちらりと浪巫謠の顔を見た。

白皙の美貌が息を飲むと同時にさっと赤くなり、ことさらに魔道具から目を背けたからだった。聆牙と目配せし、なんとなく事情を察して話を逸らす。

(あーあ、巫謠さん、心中お察しします。)

入り婿である自分も嫁といちゃついていた折、急用の丹家の召使に声をかけられ、きまり悪くなったのを思い出す。聆牙もかちり、と牙を鳴らした。

(さっきの不患ちゃんとのアレも、地獄耳の魔道具越しに聞かれてた可能性もあるってことだもんねぇ。そりゃ赤くもなるわ。)

 

聆牙の回想したアレ、とは、ひとりと一面が夜を日に継いで持ち帰って来た霊薬を、殤不患に手渡した時のことである。傍についてたってどうなるもんでもない、などとぶっきらぼうに言いながら、実際は婁震戒を撒いた後、ずっとそばで寝ずの看病を続けていた殤は、聆牙達が戻った時には心配でだいぶ顔色を悪くしていた。捲殘雲にしてみれば、それは英雄の意外な一面だった。魔神とも余裕綽々で闘い、宇宙の彼方へ封じ込めてみせた剛の男が、手負いの相棒の苦痛が長引くのを恐れるような、泣きそうな顔をしている。思わず声をかけた。

「おおい、あんたの方が怪我人みたいな顔して、大丈夫かい旦那。」

「大丈夫なもんか。……こいつがいなくなったら、俺は、」

耐えられない、というように胸元を握りしめた手に浮かぶ幾筋もの血管が、魔神を相手にするよりこの事態が彼にとって重いのだと、捲殘雲に悟らせた。

「早く、飲ませねえと。」

抱き起こした怪我人の口元に竹筒を持っていくも、意識のない浪の唇が上手く開くはずもなく。舌打ちし、焦りで手を震わせる殤に、気をきかせて捲殘雲は言った。

「あのー、俺ら後ろ向いて、なーんにも見てないから。」

「そーそー。アンタはフツーに筒越しに飲ませてるだけさ。」

聆牙も同調し、せーのでくるりと壁を向いた。

仲間の心遣いを有難く思いながら、霊薬を口に含み、血の気を失った浪の唇に合わせると、むせないよう少しずつ隙間に流し込んだ。とっておきの霊薬と称されたそれは酷い味の代物だったが、早く浪の痛みを取り除いてやりたい殤は気づかない。

浪の五感のうちで最も早く目覚めたのは聡い耳だった。すぐそばで聞こえる心音と、続いて感じる触感で、己が殤に抱き上げられていると気づく。何か薬のようなものを、口移しで丁寧に与えられている。

「巫謠、巫謠。」

「これを飲んで、早く良くなれ、巫謠。」

祈るような呟き。触れ合った唇が水音を立て、合間に想いの丈を伝えるように吸い、押し当ててねぶる。

「……ん、ふぅ、っぁ、」

傷のもたらす痛みと熱で荒れていた鼓動は、投薬の一口ごとに治まっているはずが、浪の呼吸は無意識に上がり、口づけの後で小さな喘ぎが漏れる。

半量のあらかたを飲ませ、さすがの殤も、いつまでも捲殘雲に気を使わせるわけにはいかないと、もういいぞ、と告げた。

おずおずとこちらを向いた捲殘雲の前で、浪の意識も覚醒し始めたのか、筒を傾ければこくり、と飲み込んだ。

そして幸いにも、一番最後に目覚めた浪の感覚は味覚であった。天工詭匠のこと、すぐには味を感じないように細工していたのかも知れない。

あまりの不味さに不明瞭だった意識も一気に戻り、手足に力が入って殤を押しのける。

いや、それよりも。

(天工詭匠に薬を貰うなら、なぜ殤が行かなかった? )

(殤はどうして天命を避ける? 天命は会いたがっているのに。)

(とても悲し気な、とても優しい声で、名を呼ばれた。)

(不患と、いっぱい接吻……、ちがう、薬だけど。どうしよう殘雲に見られた? )

浪は眠っていた脳に送り込まれた情報の多さに、混乱しきっていた。かろうじて言葉にしたのは天命を避ける理由を問いただすものだったが、照れ隠しには聞こえなかっただろうかと不安になる。

目録をなんとかしないと合わせる顔がない、それは言い訳であり、本当は守りたい、もう失いたくないのだと絞り出した殤の本音に、それ以上浪は何も言えない。殤がそう思っているのと同様に、浪とて殤を守りたい、傷つけたくないと願って行動しているからだ。失くしたくないのは俺も同じだと、言葉にせずに見つめ合う。捲殘雲が声をかけたのはその時だったのだ。

 

「はっはっは、私もなにも見てないし、もちろん聞いてもいないとも。お熱い(*´з`)場面なんかなかったのさ。」

「ふざけんな! しっかり聞き耳立てていやがったな?! 」

(聞かれた……! )

余計な一言を喋った魔道具を袋に押し戻した殤の顔がまともに見られず、浪は一同に背を向けると、どうやったら顔に上った血の気がひいてくれるのか悩みながら、両手で頬を押さえてふらふらと歩き出した。