殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

厄災の神と白玉の巫子 八

「聆牙。……あとを、頼む。」

「……あいよ。」

 

浪が琵琶に告げ、琵琶が一呼吸おいてゆっくりと、頷きました。琵琶を構えた白衣の青年は、軽く袖を揺らすと息を吸い、そして。

大音量で、歌を歌い始めました。

「おい、お前ら、一体何を……!? 」

音の波が風となり、大気を揺らし始めました。闇の中で、ひとの目には見えないような細かな粒子が、きらきらと浪の口元から放たれていきます。真っ白なそれらが闇に食い込むたびに、同じ大きさの闇が飛び散って、あるものは崖を突き抜け、またあるものは上空へと舞い上がっていくのです。

「闇が、消えていく……? 」

どこか異国の旋律なのでしょうか。巫謠の喉から流れるのは、長命となった男ですら、聞いたことのない音楽でした。指先から紡がれるのは不思議な音曲で、それは時に長く、短く、波長が変わりました。

光よりももっと温かい、その粒子を浴び続けるうちに、体の表面が燃えるように熱くなっていました。男は、長らく闇と同化していた足が、すんなりと動くのを感じました。

一歩。浪のもとへ近寄ろうとすると、歌っている眼差しと目が合いました。

嬉しそうに目を細め、何かを琵琶の首に囁き。詞を繋ごうとした唇から。

大量の血塊がこぼれだして、地面にぼたぼたと落ちました。

「巫謠?! 」

「浪、頑張れ! あと一息だぜ! 」

琵琶の声に励まされるように、大きく傾いだ体を立て直し、白い袖でぐっと口元を拭って、浪は歌い続けました。白の粒子は渦を巻いて闇の黒を弾き出し、駆逐し、あれほど濃く、果てがないように広がっていた闇が、今は男の周りに漂うだけになっていました。

ようやく男は、巫謠が何をしているのか、鮮明に気づきました。気づくのが遅すぎたのかもしれません。

「馬鹿、やめろ! 巫謠!? 」

目の前の青年の体は、その喉から音とともに放たれた粒子と同じような、霧散寸前の集合に変わっていました。白の衣装越しに、奥の岩肌が透けて見えました。

男は、殤不患はすっかり自由になった左手で腰の木刀を引き抜くと、背後に残っていた闇の塊を斬り払いました。それから、白煙のように消えかかっている、巫謠だったものに駆け寄りました。

「消えるな! 消えるんじゃねぇ! 」

咄嗟に懐に手を入れ、一本の筆を取り出します。その筆の先端をかざすと、漂っていた白く光る粒子が残らず尖った筆先に吸い込まれていきました。

ごとん、と赤い琵琶が地面に落ちました。