殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

花の落つるところ

突然、微かな呻き声を漏らしながらもがき苦しみ始めた浪の体を抱いて、殤はおろおろと視線を彷徨わせる。どこにも気配は感じないが、謎の半紙が落ちて来たのを考えれば、空間に繋がりがあると考えるのが筋道だ。

「天命! じーさん! どっかで見てんだろう?! 巫謠の様子がおかしい。早くここから出してくれ! 」

喚いて耳を澄ませど、しんと静まり返った小屋の中には浪の体が立てる衣擦れの音と、荒い呼吸音だけが響いている。

「巫謠! くそ、なんであいつら返事しねぇんだよっ?! 」

まさか本当に肌を合わせなければ出られないのか。背筋に冷や汗が走る。浪は血の気の失せた青白い顔で固く目を閉じ、揺すぶっても反応がない。ひゅうひゅうと、喉から肺の辺りが嫌な音を立てている。

怒りと焦燥に駆られながら、殤はやけっぱちで浪を抱えたまま己の衣類を脱ぎ捨て始めた。半身を露わにすると、次は脱ぎ掛けだった浪の衣類を取り去っていく。着込んでいるため陽に焼けない白い肌があらわれる。緋色の乳首がそこだけ果実のような瑞々しさを湛えていた。

一か八か、と殤は太い二本の腕で、意識を失っている浪の上半身を抱き寄せ、自らの胸へと強く押し付けた。男とは思えないほど、さらさらとした肌理の細かな浪の肌が、肉付きの良い殤のそれの上でしっとりと滑った。

「一応、肌と肌は合わさったぞ! これでどうだ!」

がちゃり、とどこかで鍵の開く音がした。あれほどびくともしなかった小屋の扉が、ゆっくりと外へと向けて開いて行く。半信半疑でやってみたが、実際に開いたのを見ると、その条件の緩さに頭痛がする思いだった。

「……雑な造りにもほどがあるってんだ。これでいいんなら適当過ぎんだろうが、ったく。っと、こうしちゃいられねぇ。」

服を着る、また着せる寸暇も惜しんで浪を抱き上げ、殤はあっけなく開いた扉をくぐり、小屋の外へと一目散に駆けだした。

 

そこから先は嵐のようだった。

隠れ家の裏庭にある井戸端で水を汲み上げ、口移しで水を飲ませては腹を押して吐かせる。胸の奥か、胃の腑から出血したのか血混じりの中身が透明になるまで、幾度もそれを繰り返した。そうこうしているうちに、異変に気付いた睦天命と天工詭匠がようやく集まってきたので、事情を説明すればふたりとも蒼白になった。慌てふためくふたりの様子に、殤は逆に冷静さを取り戻す。

「聆牙はどこだ? 」

ぐったりとした浪の体を寝台に横たえてから、彼の愛用の琵琶を探す。大騒ぎしていた人間達の会話から事情は察したようで、けれど琵琶はなぜか取り乱した様子も見せず、大きなため息をついただけだった。

「うちの浪ちゃんときたら、めちゃくちゃ極端な男だからねぇ。」

まっすぐで一途といえば聞こえはいいが、ゼロか一かの極端さ、融通の利かなさの裏返しであると琵琶は言う。

「手っ取り早く出してもらうには、それが一番早いと思ったんだろうよ。」

「だからって、毒を飲む奴があるか! 聆牙、なにか心あたりはないか。解毒できるようなもんも、」

八つ当たりのように琵琶に叫んだ殤は、それでも浪の一番側にいる楽器ならと期待を込めて尋ねるが、琵琶の先端についた鬼面は目をくりっとさせて、なぜか、笑った。

「そう心配しなさんな。アレの毒性はそう強くない。胃の中も洗ってもらったようだし、一晩寝れば明日の朝にはけろっとしてるさ。」

「だが、まだ呼吸もおかしいし痙攣もおきてる。顔色だって白いままだ。」

「大丈夫だって言ってんだろ。旦那が浪のなにを知ってるってんだ。」

心配して言い募る殤を、一蹴する。

「こいつは盲目の母親と一緒に山で暮らしていた。こいつの母親ってのは勘の鋭い女だったが、そこは目の見えない哀しさで、たまに食える野草と食えない野草、茸なんかも毒茸を間違えて調理することがあってな。」

幼い頃から毒餌に慣らされたおかげで、人並み以上に回復力が身についている、と琵琶は続けた。浪にとっては脱出の為、一番痛手の少ない手段を選んだといえる。