罪殺ぐ
儚げな外見に反して強い男だと、殤は新しく出来たこの仲間の姿を頼もしく思っていた。強いようで、ある方向からの力にはとんでもなく脆い石がこの世にはあるという。己の生きる道を定めてからは、真っ直ぐで剛毅に見えていたその姿が、力なく、今にも壊れそうに項垂れている。
床に落ちた湯呑と自分のそれを茶卓に置いて、殤は立ち上がると、座している浪のそばへ寄ってその上半身を抱きしめた。そうしないではいられなかった。ひやりと冷たい髪と、熱の無い肉に、深い哀しみが走る。びくっと体を震わせて、それでも最初は殤の腕を受け入れた浪は、目を閉じて数秒ほど味わうようにした後で、ゆっくりと、その体を押して遠ざけた。
「慰めは、ありがたい。……だが俺には、お前の手を受ける価値もない。」
「価値があるかどうかは、俺が決めるこった。」
「俺はっ……、」
浪の語尾が大きく震えた。
「俺は、母の命より、お前をとった。」
「だったらなおさら、感謝しねぇとな。」
突っぱねる腕を力づくで引き寄せ、こわばる体を懐に納める。浪は子供のようにいやいやと首を振った。
「やめろ。気持ちが混ざって、暴れて、天井が崩れる。」
生きている母に会えた嬉しさと、母に罰せらる安心と。大事なひとを傷つけられた痛みと憤り、十重二重に重ねた罪の重さ。殤が身をもって自分をかばってくれ、気にかけ、探しにきてくれた歓びが夢と現実の狭間で入り混ざって、千々に乱れる。
だから、流したかった。何もかも全てを削ぎ去って、真っ白になりたかった。実際の水は浪のそんな願いとは裏腹に、何も落としてはくれなかった。
留まり続ける幾多の想いが膨れ上がって、継ぎ目が破れそうで、怖い。
「こわい。」