殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

厄災の神と白玉の巫子 三

なんとかしてやれるんなら、してやりたい。

やれるんならとっくにやってる。

 

目の前で小さく丸まっている子供の背中に投げかけようとして、闇と同化した男は口を噤みました。

痩せこけた、小さな子供でした。

かつて地上で人として暮らしたことのある男には、共同体における生贄に選ばれるのが、どんな存在であるのか察しがついていました。

手が届かぬほど高貴であるか、またはその逆か。

男はまた、長いため息をつきました。

「命と引き換えってのは、死ぬってことだ。お前、その意味をちゃんとわかって言ってんのか。死んじまったら、もう歌えねぇんだぞ。」

琵琶の音と一緒に聞こえてきたのは、この子供の歌だったことでしょう。今は最期と思い定めた時にも心の支えとしたなら、どれほど歌が好きなのかわかろうというものです。

「……ふ、」

「はーあ。」

奇妙にも、頭を下げたままの子供から忍び笑う声がし、背中の琵琶はあきれたように声を上げたのです。

「何がおかしい。」

「……ごめんなさい。でも、神様が。昨夜の聆牙とおんなじことを言うから。」

聆牙とは、この喋る琵琶の付喪神のことだろうか。そう疑問を抱くと、琵琶も続けました。

「これでもよ、知ってる限りのひとの情緒ってやつで説得を試みたし、こっそり逃げようとも言ったんだけどな。コイツは聞きゃしなかったのよ。」

馬鹿だよなぁ、と言ったその声はどこか清々しい響きがありました。

「そこまで恩義を感じるほど、村の連中に大事にされてたようには正直見えねぇけどな。」

男は訝しみました。

「おう。さすが神様ともなりゃお見通しだな。仰せの通り、大事にされてたとは言い難い。」

だがな、と琵琶は言った。

「親がいないからと邪険にしたり、石を投げて追い出したりもされなかった。可愛がられもしなかったが、苛められることもなかったのさ。ほどほどに助けて、後は好きなように放っておいてくれた。浪のような奴には、居心地の良い場所だったんだ。」

まるで自分の心情を代弁してくれたかのようなそれに、子供も頭を下げたままでこくこくと頷きました。

「みんな俺の歌を、いいって言ってくれた。だから、いい。」