殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

デジジャケット

西幽玹歌の円盤情報が新たに出ていた。新情報は三方背ボックス絵と、描き下ろしのデジジャケット。このデジジャケットが本当に心に染みるデザインで、眺めているうちにぼろぼろと泣けてきてしまった。ご本家様でなく、東離の映像や絵で泣いたのは、これが初のこと。

母に手を引かれて山道を行く幼ふよと、その背後に映る水鏡の中には、太歳さんの影。じっと佇んで、やや左手を前に差し出しているようにも見える。

やがて幼ふよは辛い別れを経験する。利用され、悔しい目にあっても、いつか出会うんだ、たったひとりの運命のひとに。幼い今はそれと気づかないかもしれないけれど、殤さんは未来で君を待ってる。母の手を放し、巫謠が次に手を重ねるのは、殤さんの左手なんだ。

 

この絵を見た時に思い出したのは、ハウルの動く城の、ソフィーの台詞だった。

「きっと行くから、未来で待ってて。」

振り返る前の幼ふよの背中に、水面に沈みながら呼びかけていそうな言葉。もう、このシチュエーションだけで、泣ける。これを運命の出会いと言わずしてなんなんだろう。

妄想が過熱したので、以下ハウルパロの落書き。

 

道中、浪巫謠がたまに見せる寂し気な顔が気になった殤不患は、それとなく睦天命から浪の生い立ちを聞き出そうとする。

「子供の頃にお母さまを亡くしたそうよ。巫謠はそれが自分のせいだと、自分を責め続けていたの。」

けれど、それ以上の詳しいことは天命も語らない。

「興味があるなら、見てみればいいじゃろう。」

天工詭匠が、とある魔道具を差し出す。それは、心に思い浮かべた者の元へ導く指輪だった。他人の過去に無遠慮に足を踏み入れて良いものか。殤は悩むが、浪の曇りがちな表情の原因を探れるなら、と指輪を指にはめるのだった。

指輪の先からこぼれた光は、ある雪山の頂上を射していた。光のさす方へ殤は走り出す。

辿り着いた山頂では、雪の降りしきる凍えるような寒さの中で、白髪の女と夕陽色をした髪の少年が歌の稽古をしていた。少年が音程を外すと、女は容赦なく手に持った枝で少年の背を打った。子供ながらに美しい顔には面影が残っている。間違いなく、巫謠だった。

「おいおい、子供相手の鍛錬じゃねぇか。少しは加減ってものをしてやれよ。」

背後から注進するが、殤の声はどうやら母子には届かぬようだった。肩に触れようとしてもすり抜けてしまう。歌唱に剣戟と、折檻にも似た特訓が続くのを、ただ見守るしかなかった。

けれど、女、浪の母であろうそのひとに、どれだけ厳しく当たられても、巫謠は健気に鍛錬に励んでいた。その姿からは、母への尊敬の念と、愛情すら感じられた。

「親には孝を尽くせというが、親孝行な息子だよ、まったく。」

「ひでぇな。あんなに傷を作っちまって。痛むだろうに、昔っから我慢強かったんだな、お前。」

殤がひとりごちながら母子の様子を見守るうち、蝋燭をつけたり消したりするように、ひっきりなしに陽が昇り、せわしなく落ちた。ある日、浪の声は出なくなり、母親は祭壇に祈りを捧げた。倒れて床についた浪を、母親は懸命に看病していた。

小屋の中で事態を見つめる殤の前で、それは起こった。

「母上、僕です。巫謠です! 」

「巫謠はどこ?! 」

盲目の母親は、声変わりを迎えた己の息子がわからなかったらしい。いや、わかってはいたが、変わってしまった声を受け入れるのに精神が追いつかなかったのかもしれなかった。狂乱状態で駆けていく先に、断崖があった。

「母上!?」

「おい、あんた待てよ! その先は!? 」

幼い浪が伸ばした腕も、勿論、殤が伸ばした手も空を切って届かない。浪の目の前で、母親は深い谷底へと落ちていった。

「……そういう、ことだったのか。」

肩を震わせ、母を呼びながら泣きじゃくる巫謠の背を、殤は触れられない手で、優しく撫で続けた。抱きしめてやれないのが辛かった。きっとあの暗く寂しい横顔は、今のこの瞬間を思い出してのことだったのだ。

 

「お前は何も悪くない。」

暮らした小屋を焼き、山を降りようとする巫謠に、まだ顔のない琵琶が告げた。その頃の聆牙は、喋るとは思われていなかったらしく、聞く限りでは浪との関係性も今のように親密ではないようだった。

「んなこと言われたって、気楽にそうは思えねぇよな。」

母の死は自分のせいだと、あれでは誰でも思ってしまう。それでも罪の重荷を背負い、巫謠は母の形見の琵琶とともに、歩き出そうとしていた。

その時、殤の指に嵌まっていた魔道具の指輪が、カタカタと震え始めた。ああもう、効力が切れるのだ。せめて、この先もそばで見守っていられたらと思ったのに。

指輪の震えとともに空間が歪んでいく。足元が沼のような暗い水面に変化して、殤の足を飲み込み始めた。聞こえないとわかってはいたが、殤は少年に向かって叫んだ。

「巫謠! 聆牙! 」

ふと、少年が足を止めて振り返った。

「俺の名は殤不患だ。必ず迎えに行くから、未来で待っていてくれ! 」

闇に吸い込まれる前に、その翡翠色の瞳と、目があったような気がした。

 

気がつくと、隠れ家の自室の寝台の上に横たわっていた。ずっと眠っていたようで、手足がひどく重い。

気配を感じて首を巡らすと、寝台の脇の椅子で、先ほどの子供が、いや、青年に育った浪が、こちらをじっと見つめていた。背中で顔のついた琵琶がけたたましく笑う。

「爺さんの魔道具を使って、卒倒しちまったんだって? 気をつけなよ、旦那。いずれ魔道具の材料にでもされちまうぜ。」

「お前が運んでくれたのか? 」

「いや、お前を部屋まで担いできたのは睦姐姐だ。俺は、殤が起きるまで側についてやってくれと頼まれて。」

「そうか。」

半身を起こして、頭をかく。静かに、浪が言った。

「どうした? 」

「なにがだ? 」

「……泣いていた。」

驚いて目元に手をやれば、確かに濡れた痕があった。

「さては怖い夢でも見たのかい? 啖劍太歳ともあろう男が泣くなんて、さぞかし恐ろしい夢だったんだろうなぁ。夢は話しちまえば正夢にならねぇっていうぜ。洗いざらい吐いてみちゃどうだ? 」

カタカタ、ケタケタと、頭部についた牙が鳴った。そのにぎやかさが、しんと静かな雪山で過ごした耳には懐かしく、ありがたかった。

「夢、だったら。良かったかもな。」

「殤? 」

寝台から降りて立ち上がり、椅子に座ったままだった浪の、沈む夕陽の色の髪をくしゃりとひとなでした。それだけでは耐えきれずに、両の腕で上半身を抱きしめた。

「良く、歩いたな。」

あんな過去を抱えたままで、お前はお前の道を切り開いたのか。

目を見開き、されるがままに身を委ねながらも、浪もぽつりと答えた。

「……待ってた。」