お前が履いているからだ さん
前と、前からの続き。
結局、どう店のスタッフに言い訳して出て来たのかは知らないが、太歳は白ふよの肩をがっつり抱いたまま離さずにそのまま退店し、さんざん飲んだのに素面に近い天命は強引にタクシーに押し込まれた。
別のタクシーで帰宅し、隣家の太歳の部屋に連れ込まれた白ふよは、着替える時間も与えられずに白スカートのままである。抗ってはみたものの、腰に回された腕とがっちりつかまれた手首はほどけず、あれよあれよという間にベッドに押し倒されていた。
「待って、なんで……っ、」
化粧も落としていない。アルコールと煙草のけむりと多種多様な香水にまみれた空間の残り香を振り払いたいのに、シャワーも浴びていない。
「メイク……っ、」
「明日落とせばいいだろ。」
「風呂……っ、」
「終わったら入れてやるから。」
短い抗議も聞き入れられてもらえない。
「服は天命からの借り物か? 」
「そうだけど……っ、」
「下着とストッキングは? 」
「百円ショップ寄って調達、」
「今は本当になんでも売ってるもんなんだなぁ。」
さすが十代後半からモデルをやってきた太歳は、洋服を大切に扱うすべを心得ていて、白ふよがまとっていた、天命が用意した衣装を丁寧に、だが素早く剥ぎ取った。
感心しながら見下ろしたのは、外側を剥がされて白いブラと白ショーツと、ストッキングのみをまとった、慣れ親しんだ白ふよの裸体。うつ伏せになって這うように逃げようとした下半身を、がっちりと両腕で羽交い絞めにすれば、いよいよ辛そうな声があがる。
「やだ、待てってば。怒ってるのか! それともあきれてるのか? 」
女装してまでバイト先を覗きにきて、頭が可笑しい、馬鹿馬鹿しいと。あきれられても仕方がない。天命の口車にのせられたとはいえ、最終的に下着まで買い揃えたのは白ふよの意志である。
「怒るもんか。むしろ……。」
獲物を前に舌なめずりする獣のような獰猛な顔で、太歳は笑みを浮かべた。
「興奮し過ぎて噴火しそうだ。ストッキングはやばすぎる。」
太歳が楽し気になるのに反比例して、白ふよの心はどんどん沈んでいった。
「それは、今の俺が女みたい、だからか? 」
胸なんてないのに、ブラをつけて。はみ出しそうなのに、小さな布のショーツを履いて。こんな異様な姿をさらした男で興奮できるなんて。
いや。女なら、自分の恰好はなんら不思議はない。そう思うと。
「女のほうが……、いいのか。」
みじめさに打ち震えながら、縋りついた枕に顔を埋めれば、涙が出そうだった。
そんな白ふよの耳に、楽し気な太歳の声が届いた。
「わかってねぇなぁ。」
白ふよは周りの同年代の男や、その兄に比べると、ほっそりと頼りなげな体つきをしている。清楚な美貌も中性的で、今日のように薄化粧をしていたらまず、どちらの性別か迷うほどだった。けれど当人が、それを好んでいないことを太歳は知っている。
女装なんて、絶対にしたくなかったであろうに。屈辱を耐え忍んでそれを選ぶほど、白ふよが自分を気にかけ、周りの女性に嫉妬したのだろうと思うと、白ふよには悪いが、太歳は嬉しくて仕方がないのである。
んー、わかってねぇなぁ、ともう一度言い、ストッキング越しの薄い尻の弾力に頬を擦りつけた。
「お前が履いているからに決まってんだろ。」
「へ? 」
太い指でつまんだ部分から、びびびっと、音を立ててストッキングが引き裂かれた。
穴の開いたところから舌を差し入れ、太ももを舐め上げれば、太歳の耳を喜ばせる可愛い悲鳴があがる。
「太歳のばか、変態親父! 」
「褒め言葉だな。お前が履いてるストッキングを破ってんだぞ、この手触りのたまらんこと。変態と言われようがやめられるか。」
ストッキングの穴に右手を突っ込み、内腿のきめ細かく滑らかな感触を手の平で味わう。手の甲に感じるざらざらしたナイロン繊維との対比がたまらない。ざらざらと、つるつるすべすべ。何十分でも触っていられそうである。