プレイはしないけれど
このところ、FF7リメイクのプレイ動画がたくさんYouTubeにあがってて、懐かしく思いながら視聴していた。昔みたいに何十時間もゲームに費やす気にはなれないので、自分でやってみようとは思えないけれど。見ている分にはとっても面白い。ただのリメイクじゃなくて新規要素もたらふく追加されているので、ミッドガルを出るまでだというのに記憶していた以上のボリューム感があった。クラウドの女装シーンとかめちゃくちゃ凝っている。考えたら、あの年頃の男の子にしては潔い。他に方法がなかったり、どうしてもやる必要があるのだったら思いきって出来る子なんだろうな。
現パロ。雑誌モデルの太歳さんと、お隣の住人であり年の離れた幼馴染でもある白ふよさん。最近、太歳さんがなんだかよそよそしい。バイトの帰りには現場に迎えにきて、家まで送ってくれるはずが、ひとりで帰ってくれという。先に撮影が終わって、太歳がいるはずのモデル事務所を訪ねると、そこにはマネージャー兼事務の睦天命がいた。
「どうしたの、ふよちゃん。浮かない顔しちゃって。」
「太歳、まだ、仕事中ですか? 」
「え、いいえ。あいつは……、っと。」
言いかけて口元を押さえた天命を、不安に揺れるまなざしで白ふよは見つめる。
「どこかに、行ってるんですか? 」
太歳と白ふよの関係を知らされている天命は、まさか恋人なのに説明していないのかと、半ばあきれてしまうのだった。
「ま、口止めされてるわけじゃないし、知らないほうが余計に不安になるわよね。」
白ふよよりも年上の彼女は、落ち着いた様子で笑顔を作った。そして、ここ数週間彼が事務所公認でしている仕事について、語り出したのだった。
「……と、いうわけ。だから、ふよちゃんが心配することは何にもないのよ。」
「ありがとうございます。……でも、」
説明を受けたにも関わらず、顔色が曇っている。今にも泣き出しそうなそれを見ていたら、天命はお節介と思いつつも、提案せずにはいられなかった。
「じゃ、いっかい見に行ってみる? それなら少しは安心するでしょう。」
「え……、え……?」
見に行くって、どうやって。だいたい、そこは。白ふよが困惑するうちに、その両手をとって天命がぶんぶんと大きく振った。
「大丈夫。太歳にはバレないようにするから。こっそり行って、こっそり帰ってこようね。」
ネオンがぽつぽつと輝く、夜の街。都内から離れた近県の、繁華街にある店で彼は働いていた。伸ばした黒髪をひとつに束ね、薄い黒のストライプの入ったセットアップのスーツを着こなし、臙脂のタイを締めている。堂々とした体躯と着こなし、伸びた姿勢の美しさに反して、先輩に言われてドリンクを作る手際がぎこちない。
見た目は完璧なのに、所作の覚えが悪いんだよなぁと、教育についた先輩格の赤毛のホストは苦笑していた。
「いらっしゃいませー」
新規で二名のご来店。店内からいっせいに挨拶の声がかかる。店内はそこそこ埋まっており、すぐに動けるのはヘルプでついているあれと、あいつと。チーフも兼ねている赤毛のホストの脳が、フル回転する。
受付に案内されて席にやってきたのは、二人連れの美女だった。一人は黒髪に目の大きな美女で、青を基調としたボディコンシャスなスーツを着て、たわわな胸元を強調している。けれどもいやらしさがないので、水商売でなく一般人なのだとわかった。そしてもう一人は白いコンパクトなジャケットと、ふわりとした全円のクラシックな白のロングスカートをはいた、正直こういったところの客層ではあまり見かけない、清楚な女性だった。首もとや、露出した手首がほっそりしていて人形じみている。本人も慣れないのか、困ったように周りを見回し、連れの女性の袖にしがみついていた。
橙色の髪をまっすぐ垂らした、いまどき珍しい、憂いのある儚げ美女。でもああいう女性ほど、一途にハマって時に身を滅ぼすほどに貢いでくれたりすんだよな。赤毛のホストはさりげなさを装って観察しながら、新規客ふたりにつけるホストに声をかけようと立ち上がった。
その腕が、ぐい、と引かれた。
「あの卓、俺がつきます。いいっすね? 」
「え、だってお前まだ……、」
「い い よ な? 」
ぎらぎらと、人を射殺さんばかりの琥珀色の眼で睨まれて、先輩でありながら彼は、はいぃ、と小声で返事をせざるを得なかった。なにこの臨時預かりの新人、怖い。
「いらっしゃいませ。初めましてのお客様ですね。」
「あらぁ、目敏い。もうわかっちゃった? 」
「………!? 」
白いジャケットの肩がびくり、と震える。薄化粧に紅をひいた顔立ちはたおやかで、知らない人間が見たなら誰もが綺麗な女性だと思うだろう。
「今日は外、暑かったから、喉が渇いたでしょう。何か飲みませんか。」
「そうねぇ。いただくんならさっぱりとした炭酸系のお酒がいいわ。」
貴女は? とせっつかれて、渡されたメニューを狼狽えながら覗き込む。が、若い彼女はあまり酒に詳しくないのを、臨時ホストはよく知っている。
「よかったら、俺のお薦めを飲んでくれませんか。貴女に似合うのを選びますから。」
「……はい。」
上擦ってかすれた声で頷くのが、なんともいえず愛らしい。
眼が合い、黒髪のホストの恰好を頭からつま先まで順繰りに眺め、頬を赤らめた。
「……男前。」
「お前こそ、誰にも見せたくねぇほど、別嬪さんだ。」
お互いため息交じりに言ったそれを聞いて、ぶふっと爆乳美女、天命は噴き出した。
「お、お願い。ここでのろけは勘弁して~。」