殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

踊るときはわたしが

威勢のいいことだ、と教師用の席から殤は、他の生徒達と同様に生徒会長のほうを見つめていた。

ステージの上では審査員長がマイクを握り、慌てた素振りで呼びかける。

「これは厳正な審査の結果である。君はいったい何を言いだすのだ。」

「なにが厳正なものか。浪ふようが毎回、賄賂を使って審査員を懐柔し、最優秀賞をとってきたことは学園中が知っているだろうに。前回の証拠だって上がっているんだ。」

生徒会長の手には、なにやら小さな紙が握られている。他の生徒会役員の男子生徒達も、マイクではないがメガホンを持ち、会長を支援するように叫んだ。

「諸悪の権現は浪ふようだ! 」

「金の力で芸術を穢すな! 」

「凜せつあの演奏は一位に値する素晴らしさだった。順位を誤魔化すなー! 」

(なるほど、そういうからくりか。)

殤がよく見れば、生徒会役員の男子生徒の面々は凜と一緒にいることの多い面子だった。

「たしかに。生徒会役員の言い分にも正しいところはある。収賄の疑いのある生徒が一位を取るのはふさわしくないかもしれない。」

隣に座っていた教師達も頷き出し、殤は短期間での凜せつあの手腕に舌を巻いた。

(「殤センセイ。わたしが一位になったら……、」)

教室で自信ありげに言っていた凜の言葉を思い出す。複数の教師らや生徒会長まで自分の味方につけているとなれば、もともと後ろ暗いところのある浪ふように勝ち目はないのだ。

「まあ、ふようさまになんてことを言うの?! 」

「そうよそうよ。証拠なんていくらでも捏造できるじゃないの! 」

取り巻きの少女達が、こぶしを握りながら甲高く叫ぶ。

「黙れ! お前達だって所詮は、浪ふようと、その親の金目当てに群がってるだけじゃないか! 」

「なんですって!? 」

複数の少女達が立ち上がって、生徒会の男子生徒目掛けて駆けだし、つかみかかろうとする。

客席がどよめき、おろおろとするもの、止めようとするものや逆にけしかけるものまで現れて、収拾がつかなくなろうとしていた。

 

「おい、浪ちゃん。どうなってんのー? 」

あたりの騒がしさに、バイオリンケースの中で大人しくしていた聆牙が小声で聞く。

「……身から出た錆というもの。」

会長の糾弾にも、役員達の罵倒にも顔色を変えなかった浪が、額に手を当て、やれやれとため息をついた。

それから、静かにするよう訴えている審査員のもとへつかつかと歩み寄り、その手からマイクをひったくった。

 

「生徒会長。あんたの言い分は正しい。」

 

渦中の浪がステージの中央で、マイクを握って話し出したのを見て、客席がしーんと静まり返った。

「我が両親が、娘可愛さに、審査に関わる者に金品を渡していたのは事実だ。」

えっ、と、生徒会長が驚いてマイクをとり落としそうになる。学園の女帝、高慢な令嬢が反論してくるとは思っていたが、これはまさしく想定外だった。

「叶えたい願いがあったから、わたしも許容した。過去にこのコンクールに出場した全ての生徒達に謝罪したい。……誠に申し訳ありませんでした。」

言い切って、深々とお辞儀をする。謝って許される事ではないと思うが、過去のことだと割りきれるほど浪は図々しくできていない。記憶が戻るまでは、悪役令嬢浪ふようとして生きてきたのは、事実なのだ。反省し、心を入れ替える、というのともちょっと違うが、とにかく、そういう真似はもうしないと伝えるのは大事だった。

マイクを握り直した生徒会長が、どもりながら言う。

「じゃ、じゃあ、今度もまた、」

「今回は違う。わたしはもはや、親の力で誰かを動かしはしない。」

ステージ脇にいた理事長、まだ若い青年だが、親の後を継いで理事長になったばかりの男性を見る。彼はなぜか凜を見て、その通りだというように大きく頷いた。凜が眉をひそめる。やりとりを横目で見ながら、浪は続けた。

「だが、今回の順位が実力によるものだとしても、わたしは本来失格になって然るべきだ。ソロのエントリーの場合、申請できる楽器はひとつだけで、複数の楽器を用いてはならない規定だ。声という楽器に切り替えた時点で、わたしは規定に違反している。」

ああ、そういえば、と審査員達がぽんと手を叩いた。浪ふようの歌の見事さに気を取られていたが、確かに途中で楽器を変えることは認められていない。

吹き矢による演奏への妨害で、場の空気を乱さないため。与えられた舞台を全うするため。浪は堂々とした態度で、自分の持てる音楽を奏できった。それが、今まで「ふよう」が金銭で順位を獲得してきたことへの、自分なりの贖いとけじめだった。

「最優秀賞は辞退する。会長の言う通り、二位のあんたが繰り上がればいい。……いい演奏だった。」

あっけにとられたような顔をした凜のほうを向いてそう言うと、浪はマイクを審査員のひとりに押し付けて、さっさと階段に向かい壇上から降りた。

 

「お可哀そうなふようさま。見事なお歌を披露されましたのに。」

「今回は今までのことを反省なさって、実力で一位になられたのよ。それを、あんな風に言われるなんて。」

取り巻き達はふようをなぐさめようと、ホールを出て行く後ろ姿を追う。

「え、あ、その……、」

浪の悪行を訴え、学園の女帝と徹底抗戦する構えだった生徒会長は、振り上げたこぶしを降ろすに降ろせず、おろおろと凜を見ている。

「まったく。これじゃ私達がいちゃもんをつけて、浪ふようを一位から引きずりおろしたみたいに見えるじゃないの。」

口の中でそう呟くと、それでも凜はにこりと笑って審査員にこう言った。

「それじゃ、わたしが最優秀賞でいいんですね? 」

彼女には一位になりたい目的があった。