踊るときは
音楽コンクールも全ての演目が終了し、いよいよ結果発表を待つばかりとなった。ステージ上には審査員達が集まり、それぞれ審査用のタブレットを持って小声で議論を交わしている。透明性を保つために、最後の審査は壇上で行う決まりになっているのだが、ここ数回はとある令嬢の周到な根回しにより、それらはあくまでもパフォーマンスとなっていた。
「ふようさまの歌は素晴らしかったわ。きっと今回もまた、一位はふようさまですわね。」
うっとりと取り巻きのひとりが言うのを聞いて、浪は座席で小さくなる。前回も、前々回も、浪ふようは一位になった。しかしそれは決して彼女の実力ではないのだ。
(今回は完全に己の力だが。……失格と見なされても不思議はあるまい。)
褒めそやす声に曖昧に頷いて見せながら、浪はそんな風に考えていた。
やがて審査員達の動きが止まり、発表のときが訪れる。入賞者は下位のものから呼ばれて壇上へ招かれる。努力賞、奨励賞、六位、五位、四位と名前が呼ばれるが、そこに浪の名はなかった。
三位以上の者には花束が贈られる。袖から三つの薔薇の花束が運ばれ、会場中の期待が膨らむ。発表役のスタッフが三位の少女の名を読み上げた。嬉しそうな、誇らしげな顔の黒髪の少女が、花を受け取り笑顔で手を振った。
「続いて、二位。バイオリンを演奏した、凜せつあさん! 」
白いドレス姿の凜が立ち上がり、深々と会場へ向かってお辞儀をする。割れんばかりの拍手が起こった。ステージへ向かう途中の通路で、意味深な目で浪を見る。
(……なんだ? )
ぞくり、と背筋が泡立った。正義感の強い少女なのだと第一印象で思っていたが、今浪に向けられた視線には、明らかに黒い気配がある。まるで、昔を思い出すような。
花束の贈呈が終わり、いよいよ最優秀賞の発表だった。
「一位は、バイオリンを演奏した、浪ふようさんです! 」
きゃあきゃあ、と周りにいた取り巻きの少女達が歓声を上げた。客席から押し出されるようにして通路へ向かい、浪はどんな顔をしていいのかわからないまま、バイオリンケースを抱いてステージへと上がる。自分の真の実力が評価されたのは素直に嬉しい。嬉しいのだが……。
審査員から花束を贈られる寸前、それは空気を切り裂くようにして客席から起こった。
「審査員の皆さん。浪ふようは最優秀賞にふさわしくありません! 」
声の主にいっせいに視線が飛ぶ。ホールの中段でご丁寧にマイクまで持ち、大音量で叫んだのは、この学園の生徒会長だった。
「一位になるべきは、二位の凜せつあさんです! 」