披露宴
ねんどろいど浪さんが発売されて早半月。再会しているねん殤浪の画もとても感動的だったけれども、いろんなおうちのねんどろ殤浪/浪殤さん達が一緒に食卓囲んで同じごはん食べてるのって、しみじみいいなと思った僻地沼住人。
うちもようやく宴会準備が整ったので、披露宴と相成りました。
「ようやく支度が整ったな。」
「よく頑張ったじゃねぇか、不患ちゃんずも浪ちゃんずも。」
率先して準備をしていたねん殤が満足気にテーブルの上を見回すと、聆牙も皆を労わる。
「披露宴ったってここには俺達しかいねぇからな。ま、同じ釜の飯を食って、揉め事や厄介事だけは起こさずにいようぜ。」
「……仲良く、な。」
斜に構えたところのある殤不患の袖を、たしなめるように巫謠が引く。
「それはそうと、テーブルはもう一回り大きくても良かったな。」
のこぎりをふるっていた殤殤が手元の皿を見る。
「ま、乗せきれなかった料理は台所で待機してるぜ。殤の旦那方は揃って健啖家だ。皿が空き次第運べばいいだろ。」
「それもそうだ。浪浪、蝦の殻剥いてやるから、ちょっと待ってな。」
甘やかすような伴侶の声に、浪浪は期待にぱっと目を輝かせた。
「そのように殤殤に甘えていては、置いて行かれた時に辛くなるぞ。」
浪浪に向けられたねん浪の呟きに、隣にいたねん殤は内心ぎくりとする。
内気な浪浪がどう答えるか。耳を澄ませた一同に、意外にも浪浪はさらりと言った。
「……おいていかれたなら、追えばよかろう。それもまた俺の勝手。」
それから、蝦の殻を剥く殤殤の指先に目を落とし、美味が口に入ってくるまでを待つ楽しみに専念する。
「なんつーか、まあ、お前らしいな。」
「……ああ、俺だな。」
たおやかで姫然とした見かけからは想像できないほど、芯は強い。だからこそ、殤も安心して後方を任せられるのだ。必要とあらば、置き去りにもする。いずれ追い付くと無意識に無条件に信じているから。
「何度でも置いていけ。何度でも追いつく。」
「……善処する。あーっと、めでてぇ祝宴の席でする話でもねぇな。とっとと食おうぜ巫謠。」
「よもや蝦の殻を剥いてもらう為に追うのではあるまいな。」
ねん浪があきれたように返すと、浪浪はきょとりと首を傾げる。
「殤殤は魚の骨もとってくれるぞ。焼鴨の皮も切り分けてくれる。」
「いや、こいつは箸の使い方がうまくないもんだから、つい世話を焼いちまって。」
隣で言い訳をする殤殤を、どこかあたたかな目でねん殤は見つめた。
「浪浪の奴は可愛いからな。甘やかしたくなる気持ちもわかる。わかるんだが、せめて口へ運んでやるのはふたりっきりのメシ時だけにしてくれ。ねん浪が羨ましがって、でも自分もと人前でねだるには恥ずかしがって、悶々と葛藤している。」
「!?」
「今を楽しめ。」
もぐもぐと、殤の指で口に入れられた蝦を咀嚼しながら浪浪は言った。
「心昂るままに吟じ、好物を食し、肌の温度を感じ合えるも、ともにあればこそ。」
「だとよ。ほれ。」
「え、あっ、」
笑いながら、ねん殤も行儀わるく指で蒸し鶏のひと切れを摘まむと、ねん浪の開いた唇に突っ込んでやる。
「気恥ずかしさも、美味のうち。」
頬を赤らめ、目を白黒させて鶏をはむはむとしているねん浪を横目で見つつ、ぺろりと唇をなめた浪浪は殤殤におかわりをねだった。
◇◇◇◇◇
披露宴は途中でお互いたべさせあいっこ大会の様態を呈しながら、つつがなく幕を下ろした。
片付けを終え、それぞれの寝間に引き上げていく夫婦達の顔色は明るい。気を使ってどこの寝間へも赴かず、居間に残った聆牙ははた、と思い出した。
「まだ寝具の用意が整ってない寝間があったんじゃねーかな。あいつら大丈夫か? 」
と、どこかの寝室のどこかの殤浪が、家の中を歩き回ってなにかを探している気配がした。
結婚式の初夜もまた、始まるには時間がかかりそうだった。
◇◇◇◇◇
お部屋の装飾にはpixivのフリー素材をお借りしました。
披露宴会場になったのは、カントリーウッドガーデンさんの1/10スケールのドールハウス。家具は以前に赤い椅子だったり黒い机だったり買ったことがあったのですが、お部屋買うのは初めてで。木製なので木のいい香りがする。組み立て式なので畳んですぐしまえるのも便利でおすすめです。
こうやって、ひとは沼に溺れていくんだな。