雷鳴の日にあなたと その一
今日はエア雷鳴に続けの日。お祭りらしいことがこの僻地の沼においても、なにかできないかな、と考えていたのだけれど。先月からしばらく縫い物をしていなかったので、この日曜は久しぶりに縫い物がしたい。ということで。
本日はいちにち、しばらくねんどろ殤さんと自作浪浪と縫い物の妄想物語が続きます。苦手な方はどうぞお引き返し下さい。
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「最近、めっきり浪浪のやつが元気なくてな。」
殤殤がねん殤に相談すると、ねん殤は苦笑しながら、袖を振って答えた。
「我ながら鈍いにもほどがあるぜ。今月はいよいよ、待ちに待った巫謠の奴がふたりやって来るだろう。俺の嫁と、お前の嫁と。」
「ああ、そうだが。」
「気丈に振る舞っちゃいるが、辛いのさ。」
「やっぱり本物じゃない、ってのを、気に病んでるのか。」
殤殤の顔も曇る。半年弱を隣で睦まじく過ごした仲ではあるが、概念としての浪巫謠を宿したひとがたとして作られていても、浪浪は公に巫謠ではない。
ねん殤はあごに手をあて、しばらく考えて言う。
「俺達がどう言おうと、巫謠と変わらずに想っているとどれだけ説こうと、浪浪に真の救いはないだろう。だから、思い出を作ってやれ。ひとつでも、たくさんの幸せな思い出を。」
「思い出、か。」
殤殤も考え込む。まるで永遠の別れのようで、そんな風にしんみりとはしたくないが、それで浪浪の気が紛れるならそれもいいかと。
「ひとつ、ここの家主にねだってみるか。」
◇◇◇◇◇◇
「待ってくれ、不患。これは……、」
「寝床だが? 」
「それは、見ればわかるが、」
いつになく取り乱す浪浪に、殤殤は落ち着かせるように穏やかに笑みを浮かべた。
「何か思い出を作りたいと家主に言ったら、これが用意されたのさ。」
信じられない、という面持ちで浪浪が首を振る。
「メタな話をすれば、家主が大ファンの殤浪作家様がいてな。その方の神本の表紙で見かけて以来、ずっとこんな形の明代の寝台に憧れていたんだそうだ。」
「……ならぬ。」
浪浪は唇を噛み締める。
「これは、お前と、これから来る巫謠が使うべきものだ。」
「俺とお前が、使っちゃならねぇ道理もないぜ。」
殤殤の目が鋭く光る。浪浪はこの眼に弱い。一見凡庸なようでいて、裏では何もかもを支配しつくすような、天上の鷹の目。それでいて、地を這う禍つ神の恐ろしさをも持っている。
「だ、だが、ここにはまだ寝具も揃っておらぬ。」
「あー……、」
情けなさそうに殤殤は頭をかいた。
「じゃ、布団一式揃えば、その気になってくれるか? 家主に掛け合ってくる。」
「あ、おい?! 」
取り残された浪浪は、俯いて肩を震わせた。
あの腕が。肌が。触れてくれるというのなら、なによりも嬉しいが。
「……慈悲をかけられたとて、のちのち未練が募るばかりというに。」