雷鳴の日にあなたと 二
「浪浪のやつ、いったいどこへ隠れやがった。」
ぶつぶつと呟く殤殤に、隠密裏に動いていたねん殤が注進する。
「そっちの屏風の影にいるぞ。あと、家主に頼まれていた寝具を持って来た。敷き布団と枕と掛け布だそうだ。」
「おお、悪いな、俺。」
「いや。しかし、……派手だな。」
ねん殤は布団敷を手伝うと、そそくさと自室へ戻って行った。
「これで逃げ道は塞いだな。いい加減腹をくくれ、浪浪。」
寝巻に着替えた殤殤が待ち構えていると、しぶしぶといった風情で浪浪が出て来た。
「まさか本当に用意するとは。」
「昼抜きで二時間かかって縫ってたんだ。大事に使ってやろうぜ。」
「(大事に、って。汚すにきまっていようが。)」
◇◇◇◇◇
逃げたい、と浪浪は心底思った。
どれほど恋うても、決して自分のものにはならない相手だった。
今、たまさかその腕に身を委ねたとして。来月に傍らに寄り添うのが巫謠であるなら。それを喜びこそすれ、妬いたり羨んだりなどしてはならないのに。
このままでは、本当の自分に、巫謠に顔向けができなくなる。
(やはり、ならぬ。)
なんとか事態を回避する方法はないだろうか。最後に悪あがきをしてみる。
「まて、不患。これでは表から丸見えではないか。」
「ん、ああ、そうだが。」
「天幕もないのに、落ち着いてことに及べるものか。気が散って集中できん。」
そう来たか、と殤殤はため息をついた。この期に及んで往生際が悪いことこの上ない。
どれほど大切に思っているか。言葉にして語るのは苦手だった。だから、触れて、熱を交わし合うことで伝えようと思っていたが。浪浪は受け止めてくれないだろうか。
その時、隣室から呼びかけるねん殤の声が聞こえた。
「言い忘れた。家主がカーテンを縫っていて、じきに届けるから、待っていてくれと。」
「は? 」
「おお、でかした。」
青ざめる浪浪と対照的に、殤殤はにこりとした。さすが、わかっていやがる。