炎の花の花びらの 中 その二
その日以来、猫の獣人の少年は殤の前から消えてしまった。
我に返った殤は後を追った。追いながら、真意を訊ねないままに、怒りを見せてしまったのを後悔した。この半年、旅程がどれほどきつくとも、魔物に突如襲われ怪我をしても、涙ひとつ見せなかったあの浪が、絶望した面持ちで目を見開いて涙をこぼしていた。それだけで、どれほど己の態度があの子を傷つけたのかと痛ましく思う。
あの品の出どころはさておいて、せめて、もっと話を聞いてやれば良かった。
殤は歯噛みしながら、宿の周りの商店や、街門で外敵を見張る門兵などに聞き込みを始めた。
猫の獣人は珍しくないが、浪は一度見れば忘れられないような鮮やかな夕陽色のたてがみに、特徴のある三本の三つ編みで、常に人目をひいていた。それが、周辺に尋ね回っても何の消息も得られない。
手元に残されたのは、あげたい、と言われたまばゆいガーネットのブローチ。炎の花と呼ばれる夏に咲く花の、花びらを丸く切り取ったようなそれは、太陽の髪色を持つ浪にこそ似合う代物だった。
床に落ちたそれを拾い上げた時から、安易に貰うわけにはいかないシロモノだと察せられたのは、地金の裏に刻印された紋章が目に飛び込んできたからだった。調べなければわからないが、恐らくどこかの王家か、貴族らしい紋章。知らずに浪がずっと持っていたのだとしたら、彼の出自をあらわすであろう品だった。
(なんでそんな大事なモン、俺なんぞに。)
早く見つけて、返してやらねぇと、と、焦る殤の心とは裏腹に、まるでかき消されたように浪はいなくなってしまった。