炎の花の花びらの 後
ある遺跡で夕陽色の三つ編みの獣人を見たとの噂を入手し、殤が逸る心を押さえつつ赴いたのは、浪と不本意な別れ方をしてから三年後のことだった。
浪を探しながら幾つもの国を巡るうち、関連のあるらしい不穏な噂を数々聞き、また自分の目でも確かめてきた。心臓をつかまれるような痛みを覚えるものも、怒りで我を忘れるようなものもあったが、その遺跡に辿り着くまではと己を抑えてきた。
「ここは……、いや、気のせいか。」
竹林が密集する内部にあると教えられたその場所は、初めて来たはずの殤の心になぜか懐かしさを生んでいた。
自分がどこの里の生まれか浪は覚えていないと言っていたが、実は殤もまた、伝えてはいないが己の在所を知らなかった。気がついたら木劍を持ち、手探りで学びながら冒険者として自由に世界を闊歩していた。だから浪の境遇にも、似たようなこともあるもんだとさほど違和感を感じていなかった。
実際は大きな隔たりがあったわけだが。
この三年で知ってしまった事実の、重い鉛のようなそれを胸に飲み込みながら、殤は崩れた遺跡の階段を降りようとした。地上から地下の暗がりへと続くそれは、覗きこんだ先の回廊に灯りがともっていて、気を通して探れば何者かの気配がした。
「……いるのか、巫謠……? 」
魔物が棲みついていてもおかしくない、むしろそちらのほうが普通である古びた地下遺跡の奥に、浪がいると。あらかじめ情報を得ていても信じがたい話だったが。
「……殤、なのか? 」
問いかけに、かすかに風に乗って昇って来た声は、確かに浪のものと同じだった。