殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

炎の花の花びらの 後 その三

ひゅう、とどこからともなく、小部屋の内に風が吹いた。

呼吸をひとつ飲み込んで、殤は穏やかに、眼前の獣人に努めて冷静な声音で聞いた。

「あれから、ずっとここで待っていたのか? 」

考え込むような間があり、こくり、と浪は頷いた。

「ここに、来られるようになってからは、ずっと。」

獄死して、肉の身を失ってからという意味だろうと思うと、殤の胸は軋んだ。

「どうしてだ。もう、……自由になったんだろう。」

「俺がここにいることが、殤の役に立つ。そう思ったんだ。」

どうしてなのかは、わからないけれど。

そう言って口ごもった獣人の頭をぐりぐりと撫でようとして、殤は手を引っ込めた。きっと今の体では、浪には触れられないのだと知っていた。

「恩返しがしたいって、ずいぶん言ってたもんなぁ、お前。そうか。ここにいるのが、お前の恩返しってわけか。」

「そうだと、思う。うん、きっと、そうだ。」

 

ひとりぼっちで森にいた巫謠。売られそうになったと思えば、気ままな冒険者にあちらこちらと振り回され。経緯はわからないが生国へ連れ戻されたかと思えば、偽者扱いされ、命を奪われた。その上で、殤へ恩返しがしたいからここへ留まっているのだと言う。獣人の情の深さと健気さは計り知れない。

「……ったく。お前って奴は。」

浪の首には縄で縛られたような、赤い痕跡がついていた。肉体の傷が魂にまで侵食するほど、虜囚の日々は辛かったのか。それを越えて、彼は殤を待ち続けていた。

見覚えのある、まっすぐな視線で殤を見つめながら、浪は言った。

 

「だから、殤。……帰ろう? 」

はっと息を飲むが、今までの様子では浪はなにも覚えていないのだろう。それでいて、これだ。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだとため息をつきながら、ああ、やはり本質を外さないところは彼の知る浪巫謠だなと苦笑した。