殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

炎の花の花びらの 後 その四

じわじわと、湯に浸かった時のように手足の先から感覚がよみがえる。予感はしていたがまだおぼろげだった記憶が鮮明になっていた。まるで浪の言葉が、鮮やかな道しるべとなったかのように。

だから浪は、そばにいようとしてくれた。離れてもひたむきに待っていてくれたのだ。


「そうだな。帰るか。」

殤がそう言って頷いた時だった。

「待ってましたッ! ってか遅いんですけど本当ーにィ!! 」

けたたましく、喧しく、殤の手の中の宝飾品が喚いた。驚いて思わず宙へ放り出してしまう。落ちるかと思った赤い炎のようなそれは、どういう原理か浮いたまま留まり、ぎゃんぎゃんと文句を言い始めた。驚愕している浪とふたり、立ち上がってブローチに目線を合わせる。

「はは、お前さんのやかましさも久々だな。」

「浪ちゃんは迎えに来た時うっかり幼児になっちゃったから、目的を忘れちまったのも無理ないけどよー? アンタは馴染み過ぎなんだよ。ここへ来てようやく思い出すって遅すぎ! 」

「悪い悪い。いや、あまりにも引っ掛かりが少なかったんだろうよ。浪の奴にもっと違和感でもありゃ違ったんだろうが。」

殤は頭をかいた。

「ヒトの本質なんざ、どこへ行ったってたいして変わりゃーしませんよ。ねぇ浪ちゃん? 」

ブローチに話しかけられ、浪はびっくりして瞳孔が開いていた。耳と尻尾がぴんと立っている。

「聞き覚えがあるが、……お前は。」

「ほーらー。まだ寝ぼけてるぜ。さっさとあっちに帰って体を戻さないと、この魔劍の世界に取り込まれちゃうわよーって姐御が言ってる。」

「殤、これは、一体。」

赤い宝石と殤の顔とを交互に見て、浪は困惑しきっているようだった。

だが、覚えていなくても、浪のほうが己のすべきことをわきまえていた。魔劍の世界に引き込まれてしまった殤の後を追い、出会った後は元の世界へ戻る為の道しるべを渡し、片時も体から離さぬように仕向け、最後はこの世界の通行口となる場所へ導いた。遺跡に懐かしさがあったのは道理で、殤の旅はここから始まったのだった。

肉体の意識を失わせ、するりと体から抜け出す。目の前の浪に触れ、抱きしめた。

「ようやく、触れられた。」

浪にはせずに済んだはずの苦労をかけてしまった。いつ愛想を尽かされても可笑しくはないが、この男はいつも、今さらだと言ってはぐらかす。いつの間にか猫耳の消えた夕陽色の頭に頬ずりすれば、この世界では呼ばれなかった名を、殤は初めて呼ばれた。

「……不患。」

ようやく不患に会えた。そう小さく呟いたところをみると、浪もまた本来の記憶がはっきりしてきたらしい。

体を離し、手の平に装飾具を載せ宙に掲げる。

「帰ろうぜ、俺達の場所へ。」

「ああ。」

「道案内はお任せあれ! そら、行くぜー! 」

猛スピードで回転し始めたガーネットの赤い光が、渦を巻いて二人の姿を飲み込んでいく。膨れ上がった光は小部屋をいっぱいに満たして、次の瞬間に弾けるように消えた。