殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

いてもたってもいられずに

先日発表された東離六話のメイキング映像。外伝映画並みの撮影技術と構想にかけた日数とスタッフ人数と映像の素晴らしさに、霹靂さん側のこのシーンにかけた並々ならぬ情熱を感じた。本編のアクションのどこを切り取っても凄いとしか言いようがない霹靂さんの操偶技術だけれど、円盤のオーディオコメンタリーでもないのに、原作者の解説コメントがわざわざ入るほどの力の入れよう。それもほぼ浪さんの心理描写と能力解説が占めていて、キャラ情報が深堀りされて嬉しいものの、一抹の不安が過っている。

虚淵さんの場合、情報が出し尽くされた後は、相応しく華々しく散るだけでしょう。流石に蠍っちゃんや狂狷さんのように、通り魔にたまたま襲われて、じゃないといいなと思うけれど。今後敵が亡くなるのなら、味方サイドからも犠牲が出なければバランスがとれないものな。

霹靂さん的にいえば、睦っちゃんはその選択肢から外れたと思われる。殤さんが正道サイドの主人公だとすると、ヒロインは行動的で主義主張があって、それゆえに危険につっこんでいったり巻き込まれたりして命を落とす。最悪の事態を避け、今後も生かしておくために、あえて睦っちゃんは盲目にして隠居させたのかと勘ぐってしまう。

捲殘雲には希望と使命とがある。それから、一行の中では唯一の普通の人間目線を持つ人物なので、物語から削除されるとは考えにくい。

そうすると、消去法で退場させられるのは二期から登場したヒロイン、三期でも正道側のヒロイン(外道サイドの主人公は凜さん、外道サイドの今期のヒロインは明夫さんだと思っている。)としてつかず離れず寄り添っている浪さんに他ならず。無駄に行動的で、白黒つけたがって、一番危なっかしくて放っておけない魔剣であるのに。

七話目前にして、怖いので次の話を観たくない状態になってきている。だいたい、物語のクライマックスでもない折り返し地点に、原作者の解説がわざわざ入るって何。何の伏線ですか。

 

これはもう、東離本編からちょっと離れて、縫い物でもして心を落ち着かせねば。裁縫コーナー作った部屋にエアコンがなくて、真夏真冬は縫う気になれないので、春から初夏の今が旬。手を動かして出来るだけ殤浪の幸せを祈っていたい。

 

 

こないだの殤睦離婚編の、補足妄想をメモ。ショタ浪さんの愛くるしさは正義。

 

◇◇◇◇◇

 

芸能活動の為に借りたマンションの一室で、組み立て式の簡素なパイプベッドの上でこちらに背を向けて横たわる浪の背中を、聆牙はもう三十分あまり撫で続けていた。肩より伸びた夕陽色の髪は艶やかで美しいが、寝巻代わりのTシャツからのぞくうなじは紙のように白い。時折、苦しそうに口元を押さえて背を丸めるのを、痛ましい思いで見つめる。眠りに落ちればまだ楽なのだろうが、彼を悩ませる副作用はそれを許さなかった。

 

多額の借金を背負わせて養母や自分から離れざるを得なかった、大好きな養父。長年己の無力さを噛み締めながら過ごしていた浪巫謠に、養父の力となるチャンスが巡ってきたのは、ある動画投稿サイトがきっかけだった。そこからトントン拍子にスター街道を駆けあがり、動画投稿と並行した芸能活動で収益があげられるようになったのは、浪の持つ運や才能のみならず、努力失くしては成り立たない。マネージャーをかって出た聆牙は、その事を良く知っていた。

 

動画を視聴した養父の裏稼業の友人から、自分の容姿が戦う武器になると教えられた浪は、それまでまったく無自覚、無頓着であった己の美貌を磨くことを初めて意識した。

 

(「なァ、浪。アイツの言うことなんて聞くな。お前さんは今のままで十分綺麗だぜ。」)

(「……自分が綺麗だなんて、思えないけれど。でもそのほうが、売れるのならば。」)

 

今では聆牙も、浪が殤不患を父親としてではなく、ひとりの男として愛しているのだと気づいていた。その上で、大好きな養父母がまた再び元さやに納まって幸せに暮らせるなら、自分の恋情も、身体も、何をなげうっても構わないと思っていることも。

 

ジェンダーレスな容姿のほうが歌の世界観に合い、世間の受けもいい。髪を伸ばし、仕草ひとつ、着るものひとつから気をつけた。サロンに通い、生え始めたばかりの髭や全身を永久脱毛した。体に悪影響だと聆牙の猛反対を押し切って、肌が綺麗になるという、女性ホルモンの投与を定期的に受けた。副作用の吐き気がひどく、一日寝込まざるを得ない日もあったが、父の借金を早く返すためだと思えば躊躇わなかった。

 

元々持っていた華のある美しさが一層引き立ち、街を歩けば誰もがオーラに振り返る。

外見の変身を遂げた後は、仕事の役に立つお偉方相手に、心を殺して枕営業の真似事もしていた。浪は口を噤んで決して聆牙には言わないが、営業先から戻って来た浪の、赤らんで涙が滲んだ目元と、前髪にこびりついて乾いたなにかを見るなり、聆牙は相手に深い殺意を抱いた。

 

(「大丈夫。ちゃんと、自分で選んだ道だから。後悔してない。」)

(「大好きなパパと、ママのためだったら。この身が抉られても、構いやしないんだ。」)

 

だからそんな顔しないで、聆牙。

パパや、ママには絶対内緒だよ。

 

固い決意でそっと微笑む浪を見て、聆牙も覚悟を決めた。この子供が、自分の身を犠牲にしても両親を助けようとするならば、自分が命に代えても浪を救おうと。

後に聆牙は、敏腕マネージャー、プロデューサーとして浪巫謠の陰にこの男あり、と呼ばれるようになる。

 

 

「……聆牙。も、治った。平気。」

か細い声でそう言うので、聆牙は手を止め、勇気づけるように告げた。

「完済するのも時間の問題だな。お前さんは、良く頑張ったよ。」

本当に、良くやったと思う。抱えた苦労を決して父母には言わないでくれと念を押されているとしても、せめて、この子のささやかな願いは叶えてやりたいと思う。

「全部終わったら、殤の旦那に、気持ちを伝えるんだろう? 」

「……言っても、いいのかな。ママ、許してくれるかな。」

細い肩が頼りなげに揺れた。仰向けになりこちらを見た巫謠は、幼い頃から見慣れた聆牙をはっとさせるほど美しい存在に育っていた。また幾分かやつれた頬に手をやって、聆牙は太鼓判を押した。

「睦姐さんほどきっぷのいい、大らかな女は見たことねぇよ。心配すんな。」

「うん。ありがと。」

あたたかな手に自分の白い繊手を重ねて、浪は目を閉じた。

「大きい。パパと同じくらい。」

安心する、と呟き、眠りに落ちた浪を、同居しながら支えるマネージャーは見守り続ける。

(俺に、二本の腕が、手があって良かったよ。今ならお前が傷ついても、この両手で慰めることができる。)

願い叶わず、すげなく拒絶されたとしても。己の守り方を知らない浪に代わって、一番側で守りたいと、聆牙は願うのだった。

 

 

睦天命が、息子の告白を聞いた後の第一声は。

「やっぱりね。そうじゃないかと思ったの。」

であった。ただの父子と呼ぶには懐き過ぎているし、浪は献身的であり過ぎた。続く言葉が恐ろしく、顔を上げられない巫謠の肩をぽーんと叩いて、養母は明るく言った。

「人を好きになる気持ちはとめようがないわ。それに不患のあの様子。脈なしじゃないと思うの。」

天命は殤に会ってはいないものの、聆牙からは、幼少時の猫可愛がりの様子が十代後半の今までずっと継続していると聞いている。それは甘過ぎて周囲が砂を吐くほどだとも。

「ママ……、ごめんなさい。」

「何を言ってるの。ママは、パパのことも好きだけど、巫謠のことも同じくらい大事に思ってるのよ。貴方にも幸せになって欲しいの。」

 

 

かくして完済の日を迎え、親子三人は再び一堂に会した。意を決して養父に告白した浪だが、元より長年の想いが報われるとは信じていない。ただ、伝えたかっただけだった。叶わなくとも、伝えて、区切りをつけたかった。

(パパが聞いたら、嫌がるようなことを、沢山してきた。)

(汚れた体で、言う資格がないなんて、わかってる。)

(これで、一生のお別れになっても、いい。)

 

 

浪に想いを告げられた殤は驚きを隠さなかった。しばらく、難しい顔で宙を睨んでいたが、その視線がふっと、迷うように天命に移った。

うんうん、と笑顔で天命が頷く。一歩、二歩と進み、俯く浪の肩に両手を置いた。

「あの野郎にも、常軌を逸した親馬鹿ぶりだと、何度も言われたっけなぁ。『はてお前のそれは、本当に親馬鹿なのか。』と。」

「殤? 」

「お前が消えちまいやしないかと、俺はいつも必死だった。」

必死に、抱きしめて、愛情を注いで、それでもどこか不安だった。

今感じている浪への愛おしさが、親が我が子に注ぐそれ、借金を返してくれた恩義だけだとは、とうてい思えなかった。

白いおとがいに無骨な人差し指をかけ、身長差を埋めるかのように引き上げる。近づいた小さな赤い唇に吸い寄せられ、己の唇を重ね合わせた。驚きに硬直した浪は瞬きも忘れ、ぎこちなく上がった両手が殤の服を無意識に握りしめる。

二度、三度と角度を変えて啄まれるうちに、翡翠色の瞳から涙がこぼれ落ちた。

(優しいこの人の、これはきっと同情。でも、嬉しい。わずかでも、心を寄せてもらえたのなら。ああ、もう。)

「……もう、このまま、死んでもいい。」

「死なせるもんかよ。これから、始まるんだ。」

呼吸の合間に喘ぎながら告げた胸の内を、父から男へと変わった顔で殤が笑った。