殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

ミルクとお砂糖はつきますか

七月も末になり、東離三期放映終了から約一か月。暑さで朦朧としながらも、公式Twitterの情報を読んだり、フェブリのインタビューを読み返したり。

グラッテコラボも二十五日で終わり、来月末にはビジュアルファンブック発売。目次を見たら、各キャラクター紹介の後で、脚本家のインタビュー。

二期とはまた作りが違うのか、すごくシンプルな印象を受ける。Q&Aみたいなのは今回はないのかな。

勿論、普通のアニメやゲームのファンブックのように、キャラクターの好きな食べ物だとか色だとか得意な教科だとかが載っているはずはなくて。ああいうのはキャラクターをよりファンの身近な存在にする為に必要な設定だから、武侠物だとか伝統芸能のくくりとして少し目線の高い位置にある東離には、要らないといえば要らない、と納得はするのだけれど。

まあファンとしては欲しいわけですよ。白蓮様のページに好きな食べ物はタピオカごにょごにょ、と書かれていたらああやっぱりとなるわけだし。あの高貴なお顔と清楚なお声で、案外甘めのお飲み物がお好きなのだという親近感も沸くわけですし。

そういう本編を離れた、遊びや余裕みたいなもの。アンソロは二次なので除くとして、制作側から提供された緩み、みたいなものを、霹靂さんはわりと小まめに丁寧にお出しして下さるんだけれど、比較してしまうと日本側の方は足りてない。コーヒーを買って、ミルクとお砂糖とホイップクリームとプチケーキをつけますよ、というのが霹靂さんのイメージで、コーヒーだけ出して、豆の産地がうんぬん言って、おしまいなのが日本側のイメージ。

だから今回のファンブックも、豆の煎り方がどうだった、産地がどうだった、何度で淹れました、な塩梅を想像している。たまにはお砂糖もつけて下さい。

 

味の沙汰はさておいて、インタビューを読んでて気になったワードとしては、何回も出てきた女難の相、という言葉。

女性に関することで災難を受ける意味なのはわかるのだけど。確かに、母上に期待されるあまり折檻されたり、皇女に籠に入れられたりされた浪さんではある。でも、逆に言えば、その二例だけでもあって。

昨今のハーレム系ラノベの主人公などが五人も六人もの女の子にモテモテで、それぞれの事件に巻き込まれててんやわんやしている女難だとか、18禁ギャルゲである凍京ネクロの一巴君の美味しいけどトホホもある女難、なんかを見ていると、幼少期の母親と、青年期の皇女との悶着だけで女難、というのは大袈裟過ぎて、いまいちピンと来ないんである。酒楼時代に、浪さんを巡って女性客同士が大喧嘩していた描写でもあればまだ理解できるものの、あそこの酒楼で飲んだくれて「うぉおーおーおー」してたのって、ほぼ男性客じゃなかったか。野太い声援ばっかりだったよな。歌を聞いてしみじみしていたのも男客。

だから、女性にモテてそれがトラブルの元になってます、みたいな使い方にはどうにも違和感があったりする。母を除けば、難をもたらした女性は嘲風ちゃんひとりであるので。女難って対大人数の言い方であって、個人であればストーカー、でいいんじゃなかろうか。古くは高橋留美子先生の描く男主人公、らんまやあたる等の女難ぶりを見ていると、確かに浪さんに災いを与えたのは女性かもしれないが、パパンからも酷い目に合わされているし、女難というのもなんだか違う、と思えて仕方がない。

 

異飄渺のキャラ紹介の文章といい、どうもその辺りの「お出しされた設定」と、「実際に物語上で受ける印象」の差異が大きいのはどういうわけか。結局異飄渺はニヒリストにはいっさい見えないまま、それどころか本当の異飄渺の顔がどういうものかもわからないままに強制退場だったし。この先魔界で魔族女性に絡まれて困り顔の浪さんが登場するのであれば女難でもいいけれど、魔王子顔負けのイケメン魔王に絡まれるのならやっぱり首をかしげてしまう。それはそれで、ヒロインが留学先でイケメンに出会っていい雰囲気になるけれど、なぜか思い出すのは故国に残して来た彼氏っていう、よくあるやつ希望。

 

女難というより、浪さんの流れだと、女性関係で幼少期からトラウマが積み重なったあげくにすっかり女嫌い、女性が苦手になりました、の方がナチュラルな展開じゃないかな。

厳しかった母の怒鳴り声。今でも、道端で子供を怒鳴っている母親を見ると、胸に痛みを覚える浪さん。時には思わず子供に手を挙げる母親の前に立ちはだかって、代わりに殴られたりもする。叩かれた子供に寄り添い、黙って涙を拭いてやりもする。

母親は強くたくましい。けれど、どこか怖い。潜在意識にしみついたそれが頭をもたげて、子供を叱咤する女を見かける度に俯いてしまう。そんな浪さんはきっといる。

 

浪さんが生まれて初めて心を許して語り合えた女性、睦っちゃん。青年期に出会ったいわゆる綺麗なお姉さん、は、綺麗な思い出のままではいてくれなかった。あろうことか、浪さんの歌声の持つ力を利用して宮中警備を混乱させ、宝物を盗み出す大悪党の一味だったのである。淡い初恋ともいえる相手に本気の歌声を引き出す為に本気の刃を向けられ、利用されて逃げられ、純粋で繊細な浪さんが傷つかないわけがなかった。

信じていたからこそ傷も深く、謝罪されてその理由を知った今でも、女性を信じて裏切られるのが怖くて、綺麗なお姉さん不信になってしまった浪さんはきっといる。

 

たとえ邪まな鳥籠の主であろうと、囲い込まれて餌を与えられた恩を忘れてはならない。その餌がなければ極刑にかけられるか、行き場がなく野垂れ死んでいたかもわからないのだから。たとえそれが監禁と言葉の暴力のもてなしであったとしても。

日々、目の前で己の歌声のせいで様々な楽師が命を落とすのを見せつけられ、悪の華が笑い転げるのを見せつけられ、心が擦り減って気が触れそうになる。

あげく再会したら刃物で刺して来るし。女の本質は怖い。ストーカー怖い。

皇女のせいで女性にネガティブなイメージしか持てなくなってしまった浪さんはきっといる。これは間違いなく、いる。

 

浪さんがさんざん世話になった、頼りになる捲ちゃん。どういうわけか姿かたちが凜になってはいたものの、見破った奥方の丹翡さんの愛はすごいと思う。思うけれど。

あんなに口うるさく剣の型を言い立てて、けなして、しかも容赦なく殴ったりしている。反撃されない前提の、夫婦の信頼関係があっての暴力であるとはわかるけれども。

好いて所帯を持った相手をああまでぶつのは、ちょっとどうなのか。聆牙並みに口出しもけっこううるさいし。女性、やっぱり怖い。と、夫婦の再会シーンの裏で引いちゃっていた浪さんはいたはず。

 

 

「というわけで、すっかり女が苦手になっちまったウチの浪ちゃんだがな。オイラはそれはそれで治らなくとも構わねぇと思っててよぉ。」

「あら、どうして? 」

睦天命が琵琶の言葉に、けれど微笑みながら疑問を返す。けれどもそれは返答を聞かなくともわかる類の、一応聞いてみただけという流れの問いかけだった。

「山を降りたアイツを拾ってくれたのは酒楼の店主の男さ。歌声に魅せられて浪と店を盛り立ててくれたファン達も大半は江湖の男連中。不本意だが皇女に差し出して、天籟吟者として活路を開いてくれた悪徳捕吏の嘯狂狷もまた男。極めつけがあれだ。」

視線の先にいるのは、草紙を開いている殤と、傍らで何をするでもなく寛いで座っている琵琶の主だった。穏やかで、安らいだ浪の表情は、今やその男の前でしか見ることのできないものだった。

浪巫謠という魔剣を、懐刀として手中に収め、愛でているのもまた啖劍太歳・殤不患という男であった。

「巫謠は女運がなかった分、男運にはわりと恵まれていたのよね。世の中っていうのはなんでも最後には均衡が取れるようにできているんだと思うわ。」

「そう思いたいねぇ。」

ひとりの女と琵琶の目線の先で、草紙から顔を上げた殤が何かを言い、呼応した浪の紅色の唇がわずかに弧を描く。どの女達にも見せなかった柔らかな表情が、全ての答えだった。