殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

命運

東離三期三話、三十分にも満たない時間の中に詰め込まれた情報量が多すぎて、一晩経っても消化しきれていない。相変わらずの濃い物語。

冒頭から鬼じいちゃんは知らずに思いっきり婁さんの地雷を踏みぬいているし。このマッドじいちゃんに圧倒的に足りないのは、才能や努力やひらめきじゃなくて運。異世界渡りの機械は、一度作れたんだから二度目もきっと作れる。頑張って十二話あたりでカムバックしてほしい。

それにしても新しい右腕のギミック。ぼーんて。あそこは思わず笑いが出たシーン。媛が見たなら、「なんじゃ震戒、その無骨で不調法な手首は。」って、絶対ディスるに違いない。まぁ、媛の前じゃ気恥ずかしくて使えないよな。二話で飛ばされ、三話ではあっさり無界閣に戻っているスピード展開だけど、次回予告で刑亥姐さんが媛拾っちゃってるから、めっちゃ急がないと不味いぞ婁さん。ヒーメヒメ、ヒメ、歌いながら加速コース一直線。

 

浪さんはもうホントにこの子はさぁ、て、聆牙と殤さんの嘆きが聞こえてくるような展開になってしまった。

浪さんの自己肯定感の低さは根深い。自分のせいで母が死んだ、から始まり。酒場に集う質の悪い破落戸に金策の為に悪事を重ねさせた。結局恩義ある酒楼を潰した。皇女の楽師殺戮バトルという悪趣味な暴虐を制止できず、あまつさえその一端を担った。自分と啖劍太歳を追って来た皇軍に多大な被害を与えた。奪還のため、費やされた人命は数知れず。皇女が国防を疎かにし、国を傾ける原因となり、西の防人とまで呼ばれた将軍の闇落ちの引き金にまでなってしまった。

ただ、自由に生きていたいだけなのに。それだけのことが、どうしてこんなに難しい命運に生まれついたんだろう。

生まれ変わり、流されずにありのままの自分で強く生きていく、と決めたはずでも。傷ついた心は容易に癒えず、ふとした拍子に顔を出す。

皇女の刃を大人しく受けたのは、そんな己のままならぬ命運の贖い、無意識の自罰だったのかもしれない。それでも亡くなった何百の魂は浮かばれないけれど、自分にできることはそれしかないと思い詰めた末の、覚悟だったのかもしれない。

 

心の傷の深さが深淵まで達してしまうと、自分の道を肯定し、自分で選ぼうとしても決してうまくいかない。雁字搦めになった心の鎖はひとりでは解けない。

だからもう、浪さんに必要なのは他者に頼ること。他者に肯定され、愛されてようやく、立てるようになる。殤さんも聆牙も必死で、お前のせいじゃないんだと説いていて。だからなんにも傷つく必要はないのだと、自分に罰を与える必要はないのだと、自分自身が自分を見捨てたくなっても、俺達はお前を決して見捨てないのだと。その声が浪さんの心に届けばいいと思った三話。

 

心の中の嘯狂狷が、「浪巫謠、あの男は開き直りが足りないのだ。」と扇をぺしぺししながら言うので、以下妄想。

◇◇◇◇◇

 

寒い。

失血したせいで、手足がひどく冷たい。不患に触れている部分はぼんやりと暖かいけれど、申し訳なさに背筋が冷える。今は七殺天凌を捜索する、重要な道程の最中であって、足手まといになっている場合ではないというのに。それなのに。

すまないと、幾度謝っても足りない。皇女にも、殤にも、萬将軍が失ったという配下にも、滅びゆく西幽というこの国にも。いっそ、いっそこのまま。

 

ぺしぺし。ぺしぺし。軽い殴打の音がする。目を開ければそこに殤の逞しい背中はない。ああきっと、意識が遠のいて夢を見ているのだ。目の前に、手の平の大きさほどの嘯狂狷がふわふわと浮いているなどと。

「だからあの時言っただろうに。行けば必ず後悔すると。」

浮いている嘯狂狷が、こちらの胸元を扇でぺしりと叩くと、呆れたように言った。

「お前が自由と引き換えにしたのは、大勢の兵士の英霊だ。皆それぞれに人生があり、家族があり、希望も夢もあった。むざむざと、無駄死にさせたのはお前だ。」

「俺の、せい? 」

「おう。鳥籠で大人しくしてりゃ良かったもんを、なまじ欲なんぞ出すからだ。」

かけた眼鏡、小さいがしっかりとしたそれをくい、と上げて、小さい嘯狂狷は肩をすくめる。

そうかもしれない。あの時、狂狷の言葉通りに戻っていれば、今は。

俯こうとした顔を、指先ほどの大きさの扇が、ぐい、と持ち上げた。

「が、こうなっちまったもんは、仕方がねぇだろ。もう取り返しがつかないんだったら、開き直るしかねぇ。お前の旦那、啖劍太歳を見ろ。捕吏に追われようが、大罪人になろうが、『だからどうした? 』ってしれっと居直ってやがる。」

「それは、確かに。」

そこは、殤の強さだった。

「お前は殤不患のためだったら居直って、操られた市民どもをぶん殴れるくせに、自分のためとなると受け流すのがせいぜいだ。自分の命の嵩を軽くみてやがる。」

そこで、なぜか嘯狂狷は眼鏡を外した。人を小馬鹿にするようなそぶりがすっと消え、扇を腰帯に差す。

不本意ながら、お前らが踏みつけにし、重ねて来た屍の中にこの私も入っている。簡単に死なせて楽などさせてやらん。開き直って、せいぜい生きて苦しめ。お前は生きたかった連中の想いを背負っているんだからな。」

どんな謗りも怨嗟の声も、受け止めてただ生きろ。

それは殤が歩いている、茨の道だ。

「俺も、歩ける、と? 」

「人に聞くんじゃねぇ。てめぇで考えろ。ま、俺の采配通りにするんなら、今からでも皇配の地位に押し上げてやるところだが。」

「断る。」

即答すると、せっかく差した扇を再び引き抜き、ぽかり、と小さな嘯狂狷は浪の頭を叩いた。