殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

知らない町を

予定がない限りは、知らない町は迷うので歩きたくないし、どこか遠くへも近場へも行きたくないメイドインインドア派の沼主。連休をgetしたものの、暑くて何もやる気が出ないまま、長年付き合いのあるソシャゲをだらだらと遊んでいた。刀剣もネクロもやめた現在、遊んでいる唯一のソシャゲなのだけど、何が素晴らしいかというとソシャゲにつきものの、サ終に怯える必要がない。積み重ねた物語や、つぎ込んだ時間や、課金や、集めたアイテムといったものが一切無駄にならないので、安心して遊んでいられるのが有難い。イベント数も少ないし、時間に追われずまったり楽しい。

 

無心で没頭していたら、少し意欲が沸いてきたので久しぶりにお裁縫と妄想。

現パロ殤浪で、遠くへ行きたいお話。

 

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「おお、来たな。」

 

和服姿の仲居に案内されて、浪巫謠が緊張しつつ辿り着いた部屋には、既に寛いだ様子の彼の恋人、殤不患が待っていた。

チェックイン時に受付ロビーで好きな浴衣を選び、着替えさせてくれるシステムが売りのようで、殤もまた渋い色の浴衣を着ている。特に好みがないと伝えた浪には、受付にいたお団子ヘアの女性スタッフが浴衣を選んでくれた。

お茶を入れ直した仲居が去った後、部屋をぐるりと一眺した浪は、あらためて景観の良さと、都会とは違う風の涼しさに感嘆した。

 

「こんな場所、知ってたんだな。」

「まあな。」

 

珍しく同じタイミングで休暇がとれた二人は、最初は自宅でゆっくりと過ごすつもりでいた。だが、一本の電話が殤に入り、しばらく話し込んだ後に浪に告げたのだった。

避暑地にある温泉宿に行かないか、と。

 

 

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「浴衣、いいな。脱がせんのが楽そうだ。」

「まだ昼だぞ。……それより。」

 

ここへ来る前、受付にいた小柄で目つきの悪い男性スタッフに、こっそりと訊ねられたのだ。そしてそれは、浪自身も是非聞いておきたい懸案事項だった。

 

「殤と、ここの旅館の主人とはどういう間柄なんだ? 」

「どういうって……。」

 

単刀直入に聞いてはみたものの、浪の心臓はどきどきと脈打っていた。件の男性スタッフ、名札に異と書いてあったが、彼はどこか心配そうにしていた。曰く、到着した折りに非常に仲睦まじそうに語り合っていたので、気になったのだという。

殤と過ごす休暇を、楽しみにしていた。降って沸いたこの小旅行は、旅館の主である萬軍破氏の誘いであったらしい。

単に仲の良い友人同士であったならそれでいいが、若い頃に付き合っていた、などと言われたら、たとえ過去のことでも簡単に立ち直れない気がする。

 

「若い頃に……、」

「若い、ころに……? 」

 

顔をこわばらせた浪に、ふっと笑って殤は言った。

 

「若い頃に意気投合して、あちこち遊びまわった仲だな。親友ってやつさ。」

「……それだけ? 」

「それだけって、そうだが。」

 

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殤の言葉に嘘の気配はしない。良かった、と胸をなで下ろしていると、ふいに爆弾を落とされる。

 

「妬いたのか? 」

「だって! 殤と軍破さんの仲が良いって、怪しいって、ロビーのあの人が言うから! 」

「あの人? あー、そいつはな、軍破の身の振り方が心配で、前の会社からくっついてきた奴さ。」

 

くすり、と笑った後で、殤は真顔になった。

 

「この宿を始める前に勤めてた会社で、軍破の奴は結構な役職についてたんだが、上司がワンマンで違法献金汚職に手を染めてるような奴でよ。いくら軍破が諫めても聞かないばかりか、逆に横領の冤罪をひっかぶせて、軍破を首にしやがったんだ。」

「ひどい……。」

「ああ。だが、その時はどうしようもなかったらしい。それからあいつは、親戚のやってた廃業寸前の旅館を譲り受けて、あちこち手を入れて、今みたいに立て直した。だが、軍破は客商売をやるには人が良過ぎるところがあるからな。ずいぶんとお節介な元同僚達が、手を貸したんだって話だ。」

 

「じゃ、あの人も。軍破さんが、心配で。」

「ま、違うところも心配になっちまったみたいだが。」

 

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「不患。疑って、ごめん。」

しゅん、となった浪の肩を、優しく殤が叩く。

「いいさ。妬かれるのも嬉しいもんだ。それはそうと、後でロビーに行ってそいつに説教してやらねぇとな。うちの巫謠に何を吹き込んでくれたんだって。」

「ううん、いい。」

多分、ロビーの彼も、疑って、自分と同じように妬いたのだろうから。もしかすると今頃、直接本人に問いただしているかもしれない。

 

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「……あのふたり、上手く行くといいな。」

「優しいな、巫謠は。ま、俺達は俺達で、休暇をゆっくりと楽しもうぜ。」

「うん! 」