殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

月光の白い閃き

この頃の月の光は、冷えた空気に冴え冴えと輝いて、突然視界に入ると白い閃光を浴びたが如くに感じる。その美しい白さと、孤高の影にある一抹の寂しさに。知り合ったばかりの楽師の姿が忘れられず、酒を片手に姿をしのんでいたのは西幽玹歌の太歳さん。

あのシーン本当に好きだ。月光の透明な白さに、去って行く純白の衣装の、寂寥感のある後ろ姿を思い出して、魔剣に心があるのならば、と、しみじみと思いやる殤さんの優しさ。ほろ酔いの心の内は、捨てることの出来ない異能を抱えた浪さんへの、心を寄せてもどうもしてやれない、やるせなさに満ちていたことだろう。魔剣の束を抱えて難儀さにあえいでいた殤さんが、初めて、自分の魔剣は後々捨てられるだけ、運に恵まれているのだと気づいた瞬間かもしれない。だからよりいっそう、浪さんの境遇がせつなくなったのか。

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白い月光と、そこから連想させる白装束の、純粋で清らかな心を持つ楽師。世間から魔剣を収集する悪と見なされ、啖劍太歳などと酷い二つ名をつけられていた自分を、ひとの評価に左右されずに心の眼で見て、悪ではないと判断してくれた稀有な男。利用したにも関わらず、自分達の行動を理解し、許してくれた男。

本当は、一緒に来て欲しかった。けれど。傷つき、疲れ切った目でひととの関わりを拒んだ、野生の獣のような姿を見ると。引き留めずにそっとしておいてやりたかった。それでも、思いきれずに酒で紛らわす。遠ざかる背中を、盃に映った揺れる白光になぞらえて、憐憫を飲み込みながら。

けれど、月へ帰ろうとした姫を取り戻そうと奮戦したという、異国の帝の伝説さながらに、睦天命はあの楽師を諦めきれぬらしい。

去る者は追わない。そう決めて来た魔剣を護る旅路で、初めて執着心の沸いている己の心情を、聡明な彼女には読まれているのかも知れなかった。まったく、やれやれだ。

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殤さんが、というか霹靂社さんが浪さんを月の光のように澄んで、冴えて美しいイメージのように思っているのは、二期のオープニングにも如実に反映されている。高い建屋の上に座り、青白い月を背景に琵琶を弾いている浪さん。それから、まるで月から生まれ出たかのごとく、魑翼から地上へ舞い降りる浪さん。エンディングでも、嵐の前触れのように曇った月夜で聆牙を構える浪さんの姿がある。

穢れる苦痛は耐えがたい、と皇女の慧眼に見抜かれるほどに純粋で、江湖のろくでもない連中に囲まれながら聖性を失わなかった浪さんを表すのに、澄んで清らかな月の光はぴったりだと思う。光自体は美しいのにまた、月は人の心を狂わすとも昔から言われている。人心を惑わす魔性の歌声を持っている浪さんは、まさしく月そのものだ。

 

二期から遡った一期にまた、印象深いシーンがある。同じ船に乗る仲間達に、本音で語りたいのに策を弄しているのではないかと散々疑われ、傷ついた殤さんは船の舳先で月を見上げている。丹翡嬢からひとの善性を問われ、信じたいと思うし実際信じられる奴もいる、という場面。西幽で出会った月のような男は、誤解の多い殤さんのことを悪ではない者と信じて、理解し助けてくれた。それに比べてこの船の連中は誰も信じられない。誰も自分の言葉を、信じている者はいない。

殤さんにとって危険な行動を共にする仲間、というのは、西幽でそうしてきたように、互いに信じ合えることが当たり前だったのだろう。こんな連中と一緒に旅をして大丈夫なのか。後に殤さんの心配は当たって、自分を利用するばかりの彼らの性根の醜さに、袂を分かつことになるのだが。

月を見上げながら、お前のような心の綺麗な男は、東離にはいないみてぇだな、と思いふける殤さん。傷つけられた心を、月光で癒す殤さんの姿には、西幽にいる浪さんを偲んでいるのを随所に感じられて情緒を乱される。

確かに月って、見ているだけで美しくて心が落ち着く。故郷でもないのにどこか懐かしくて、ずっと目で追ってしまうところがある。どっしりした大地、緑の地球のイメージの殤さんを、その存在を守護するように回りながら、清らかな光で照らし続ける月の浪さん。月の存在は衛星という従属側であるが、お互いに分かちがたく重力で引かれ合い、影響し合い、物語の過去から助け合ってきたふたり。殤浪はまさに地球と月であると、二期オープニングは我々に語ってくれている。そしてそのイメージが一貫して、西幽玹歌でもきちんと踏襲されているところがまた、映画の萌えどころなのだよな、と。月を眺めながらの妄想なのだった。