殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

いい夫婦の日

早いもので西幽玹歌が公開されてから、そろそろ一か月近くが経とうとしている。この感想書きなぐりと萌えの掃きだめ部屋として作られたブログも、そろそろひと月。よくもまあ飽きもせずに、殤浪について書くことがあったものだと我ながらあきれるほど。去年の今頃は二期に釘付けで、それから一年ずっと殤浪の話を妄想してることを考えると、このCPの訴求力はやっぱり強い。遅筆でさらに時間もないのに、書きたい妄想のストックだけが増えに増えて困ってしまう。ここで妄想を書いてる時間があるのなら、文章の一行でも二行でも仕上げればいいのはわかっているのに。

十一月二十二日、いい夫婦の日に寄せて一本仕上げたいなぁと思っていたけれどそんなこんなで間に合わないので、以下にざらっと場面を抜き出して推敲しない走り書き。

 

「あれ、睦の姐御はどこへ行っちまったんだ? じいさんも。」

西幽の都より離れた新たな隠れ家で、啖劍太歳一行は次に回収する魔剣の目星をつけ、手に入れる算段を整えていた。秋も深まったある朝、朝市におつかいを頼まれた浪が聆牙を背負って戻ると、台所代わりの土間の食机にいたのは殤不患のみだった。使いを頼んだ当の本人の気配がない。聆牙の素っ頓狂な問いに、狭い室内で首を巡らしながら、浪巫謠が買ってきた青菜の置き所に困ってうろうろと視線をさ迷わせていると、こちらもどこか落ち着かない様子の殤不患と目があった。歯切れ悪く答える。

「そのー、なんでも、な。今日は昼過ぎまで時間をやるから、ふたりで過ごせとさ。まったく、なんなんだか。」

落ち着かないのも無理はない。同行者の人目を忍んでわりない仲になったふたりは、ごく短い二人だけの時間の隙間を見つけては思いを重ね、肌を合わせるのがすっかり習わしになってしまっていた。水入らずで過ごす場をお膳立てされ、ともすると、全部お見通しなんだからね、と言わんばかりの天命の気遣いは、すまなさと若干の居心地の悪さをも連れてくるものだったのだ。

あらためてふたりだけで向かい合うと、嬉しいものの、じっくりと共有する空間に気恥ずかしさが募る。浪には自分の瞬きの音まで聞こえるような気がした。訳知り顔の聆牙がいてくれるだけいいが。

「あー、今日ってぇのはそういう意味かよ。姐御も粋な真似をしてくれるぜ。それじゃあオレも、今日は大人しくしときましょーか。」

ぐへへ、と笑って聆牙も口を閉じてしまった。

「そういう、って。どういう、意味なのだ。」

「まあいいんじゃないか。それより、貸しな。……ん?」

藁で束ねられた青菜を浪の手から受け取ろうと手を伸ばし、殤が首を傾げる。青菜と一緒に渡されたのは、大粒の柿の身がいくつもついている重たい枝だった。沈む夕陽の色を丸い身にのせた柿は、熟れきっていて、扱いを間違えるとついている枝から転がり落ちそうなほどだった。いつもなら代弁する琵琶が口を噤んだままなので、やむなく浪が重い口を開く。

「野菜の行商人が、青菜のおまけだと、一緒にくれた。」

「んん、またか? 」

おまけにしては大人の拳よりも大きい、たいそう立派な柿だった。市で浪に買い出しをさせると、どういうわけか他の三人よりも割のいいおまけをもらって帰って来る頻度が高かった。若く顔の良い男、ともなれば、売り子のおかみさんの気に入られてもおかしくない。俺は値切るのすらもいいように躱されるんだけどなぁ、と苦笑いしながら殤は告げる。

「せっかくもらったんだ。熟した柿は足が早い。朝飯がわりに食っちまえ。」

「ひとりでは食べ切れん。お前も食べてくれ。」

立ち上がって青菜を食卓下の籠に入れ、青い葉のついたままの枝から柿をひとつ取って渡せば、あろうことか、浪は両手を添えて柿の実をふたつに裂こうとした。柔らかく熟れた、中身のどろどろとした柿である。辛うじて中を守っていた外皮を破いてしまえば果肉がぼたりと手の平に落ち、つかんだ手指が橙に染まる。

ああ、そのままではこぼれてしまう。床を汚したら面倒だ。咄嗟に殤は、柿の爆発に驚いて固まった浪の手首を引き寄せ、細い指に纏わりついた果肉をすすりあげていた。

じゅぶり。

ああ、甘い。しかもめちゃくちゃ美味い。

旬の時期でしか食べられない果物は一年ぶりのみずみずしさで、おまけには惜しいほどの旨味だった。種のないその果肉を、分厚い舌で白い手の平から舐めとる。

ずるずる、くちゃり、べろり。おおよそ品のない音が、ふたりしかいない部屋の低い天井に突き刺さる。

うまいな、これ。ひとかけらも残すまいと無心に味わっていた舌が、ひときわ果汁の溜まった浪の中指と薬指の間の、指の股を舐め上げた。そのまま中指を咥内に迎え、じゅうっと吸い上げる。

「……ん、やっ、しょ、殤!? 」 

上ずった声に、はっとして顔を上げた。熟れた柿と同じくらい赤みの強い前髪の下で、意図せず皿代わりになってしまった男が涙目で視線をそらしている。柿の実色したふわふわした髪と、緑濃き葉の色の眼。似ている、うん。じゃ、なくて。

「お、その、あ、ええと。」

しどろもどもに言い訳を口にしようとする殤の眼に入ったのは、飛び散ったのか、浪の白磁の頬に付着した橙の果肉。顔を近づけてぺろりと舐める。

「ひゃっ、」

「こっちの柿も、……美味そうだ。」

仲間に見抜かれて恥ずかしかったのは、しばらくご無沙汰だったからだ。ふたりきりが気まずかったのは、つい欲が先に立つと、歯止めが利かなくなるから。

「なぁ。食わせてくれないか。今日という日の祝いだと思って。」

「あ……、」

「駄目か。」

やはり、急過ぎたか。そう思って体を放そうと一歩下がった瞬間に。

「そんな、期待させるような食い方をしておいて、聞くな馬鹿!」

胸に飛び込んできた柿に似た男を抱きしめ、べたつく手の平を高速で水瓶の水で洗ってやり、寝室に連れ込んで乱暴にすべての皮を剥いて、現れた身を舐めしゃぶって啜り、柔らかな果肉に歯を立てるまで。柿が木から落ちる速度よりも互いに急いて。

時間がなくても、ゆっくり時間をもらえても、どのみち俺達に変わりはねぇな、とふたりは事後、顔を見合わせて微笑んだ。

枝にあった残りの柿は、帰って来た睦天命と天工詭匠の腹に収まった。