殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

水灌ぐ

なおも降り注ぐ水流の下へ戻ろうとする旅の連れの男を、やや離れた場所から殤は見守り続けた。意外と頑固な一面を持つ漢である。無理に滝壺から連れ出そうとして、意固地になられても厄介だった。

「それで、落としたいもんは流して落とせたのか? 」

「……まだだ。」

「そうか。でもまぁ、余計な人目をひくくらいなら、ほどほどのところであがって、後は別の方法で振り払う算段をつけるってのはどうだい? 」

提案を受けた浪巫謠はしばらく俯いて考えていた。その間にも、絶え間なく頭上から水は落ち、もともと色の白い肌からほとんどの血の気を奪っていた。いつもは淡い緋色のぽってりとした唇も、灰色がかった白さへ変化している。

「お前が言うのは、もっともだろうが。」

「おう。」

「混乱している。」

うん? と思ったが、それはきっと浪自身の心の内を指すのだろうと解釈して、殤は曖昧に頷いた。この言葉少ない男の意志を正確に読み取れるのは、彼の琵琶を除いては天命ぐらいのものだった。幼い童の発するような短い単語から意志をすくいとるのだから、まるで母のような存在である。

「混乱、なぁ。夢見が悪かったせいで、気持ちがまだ乱れてて落ち着かねぇって意味でいいのか。」

それで良かったのだろう。浪はこくりと頷いて、混乱、と今度は短く言った。

「こっちへ来て、夢の内容を話してみろよ。昔のひとが言うのにはな、たいていその手の悪い夢ってのは、ひとに話せば正夢にならねぇって聞くぜ。体の外へ解き放っちまったほうがいいんだそうだ。」

「正夢に、ならないのか。」

その口調が残念そうで、かえって驚く。

「流し去りたいほど悪い夢だったんじゃねぇのか? 」

「勿論、そうだ。」

「だったら、」

「だから、混乱していると。」

押し問答の繰り返しに、次第に殤は苛立ってきた。このままでは浪は芯まで冷え切って、風邪をひきかねない。いい加減にしろ、と声を荒げそうになるのを押さえて、低い声で言う。

「お前を見てたら、俺も水遊びがやりたくなってきたぜ。十かぞえるうちにそこから出て来なけりゃ、素っ裸で隣で水浴びさせてもらうからな。」

じゅう、きゅう、と言うが早いが、ざばりと波の立つ音がした。冷えて思うように動かないだろう手足を懸命に動かして、低い岸からこちらへ上がって来ようとする。

なんでひとにするように、自分をいたわれない男なのか。脅しておいて哀しくなりながら、殤はびしょ濡れの薄い衣の衿をつかんで自分の懐へ引っ張り、頭から黒い外套ですっぽりとくるみ込んだ。

「さて、顛末を聞かせてもらおうじゃねぇか。」