サービス精神の塊
三期殺青のお知らせから、東離の公式台湾Facebookの更新に殤浪出演が多くて、覗くたびに嬉しさがとまらない。期待破裂、浪浪のバンドメンバーが三期で増えるのか、みたいな文言の、ステージバージョンみたいなのがあったかと思えば、今日は新撮りのような、今まで見たことのない構図の木偶さまの殤浪捲のお写真が上がっていた。カッコいいなぁ、何かのグッズに使われるのかな。名前の切り抜き文字の中にそれぞれの顔が浮かんでるのが、奥行きがあっていい。これこのまま、ポストカードになっても素敵だし、カレンダーになってもいいんじゃないかな。殤さんは渋くてかっこいいイケおじだし、浪さんはありえんくらい美人でキュートだしで、いい画をご馳走様って感じだった。
一年以上前に放映が終わったコンテンツなのに、こうしてファンを楽しませるような更新が今でもマメに続いているっていうのは、本当に霹靂さんはサービス精神旺盛だと思う。今週末はコロナのせいで生死と西幽一気見行けなくてがっかりだったけど、殤浪の新規画を見てたらちょっと回復したよ。ありがとう霹靂さん。
いろんなことを我慢しなきゃいけないこういう時だからこそ、限られた資源の中でもちょっとでもファンを楽しませようっていう姿勢を持ってる霹靂さんって、すごいと思う。自分が還元できることといったら、東離を人に薦めたりだとか、円盤やグッズを買ったりだとか、小さなことしかないんだけど。小さくても塵積もで何かに繋がると信じて、こつこつと応援したい。
そういえば、コロナの影響で新規アニメが放映されなくなった枠が空いたのか、スライドなのか、BS日テレの深夜で東離一期と二期の再放送が決まっていた。毎週順調に放映されるなら、二期の開始は七月頃かな。七、八、九月と放映されて、そのままの流れで秋から三期が始まってくれると勢いがあっていい。
わたしは一期は普通にCPなしで観て、二期を観てから殤浪にものすごい勢いで落ちた人間なのだけど。ついったでも微博でもそういう同じ意見のひとを見かけていて。つまりは二期以降、自然な流れで殤浪もしくは浪殤に落ちるひとがまた増えるかもってことだね。やった。この半年で、殤浪好きなひとがひとりでも増えると嬉しいな。
こちらは布教、といっても本を作ったりとかはできないから、pixivメインかな。こんな妄想しちゃったよみてみて、ぐらいの、下手くそな文章しか書けないけど。それでも、読んだひとが少しでも、殤浪の妄想も悪くないじゃん、て思ってくれたら沼への初めの一歩。
あとは上手なひとたちが素敵なご本で深みへ引き込んでくださるからね。
というわけで、殤浪捲で小話ひとつ。
そのひとを初めて紹介された時、眼帯の青年は失礼と思いつつ、口から驚愕の声が漏れるのを抑えられなかった。
「えーーーー!? おっさんに相棒!? まさかこんな美人さんが?! ……痛ってっ! 」
「なんですか。大声で失礼ですわよ。殤さま、浪さま、お気を悪くなさらないでくださいませ。」
にこやかに応対する細君に、机の下で思いきり足の甲を踏んづけられて口元を覆った。
酷いよ丹翡さん。踵の細いとこで踏んだでしょー。涙目でじんじんする足を持ち上げながら、なおも信じられないと机の向こう側の長椅子にかけた二人組を見る。
かたや、魔剣目録などという恐ろしい魔道具を携えながらも、風貌の冴えない中年おっさん剣士。かたや、奇怪な鬼面のついた琵琶を持ちながら、あどけない容貌と緋色の唇のなまめかしい楽師。捲殘雲より年下だろうその紅色の衣装の持ち主は、初対面の人間の前で恥ずかしいのか、戸惑うように持っている琵琶の顔ばかりを見つめている。
殤は苦笑しながら、旧知の仲の槍使いに言った。
「美人さんなのは否定しねぇが、あんまりじろじろ見ないでやってくれ。恥ずかしがり屋だからな。」
「あー、すんません。でもさ、おっさんの相棒ってったら、なんつーか、こう、もっと。」
ごにょごにょと口ごもっていたら、あ? と凄味のある声が、同時に二か所から起こった。
ひとつは殤の、もうひとつは奇天烈にも喋る魔琵琶の声である。
「不服かよ。」
「浪が不患ちゃんの相棒なのに、不満があるってぇのか? 」
「えっと、そうじゃなくてぇ、」
慌てて両手をぶんぶんと振り回す捲殘雲に、沈んでかすれた声音がひとつ届いた。
「……是非もない。俺では、力不足と言いたいのだろう。」
違ーう、と、叫ぶよりも早く、隣から高い声が割って入った。
「まあ、違います! わたしの夫はそんなことを言うひとではありません! 」
「丹翡さぁん!」
感動して両手で妻に飛びつこうとすれば、掌底で遮られてすっ飛び、後ろへ数歩たたらを踏んだ。
「あなたも誤解のないようちゃんとおっしゃいな。」
「わかった、わかったよ、言いますよ。」
ごほりと咳払いして、捲は洗いざらい印象を伝えてしまうことを決めた。
「おっさん、浪さんは相棒だっていうけど、俺達には嫁を紹介しに来たようにしか見えないんだぜ。」
「ええ? 」
「ああー、」
ぎくりと体を震わせた殤に続き、聆牙というらしい琵琶がかくかくと顎を上下させて頷いている。勢いづいたように捲は続ける。
「さっき座ってからさー、ずっと浪さんの肩を抱いてんじゃん。来るときも背中に手えぇ添えたり、心配そうに肩触ったり。」
普通は他人と人前でそこまでべたべたしない。西幽での習慣なのかとも思ったが、七罪塔への旅では殤不患は他人と距離を保っていた。そんな男が、楽師相手にはとにかく触りまくっている。何もないと思うほうが難しいぜ、と捲はため息をつく。なにより、浪に向けるまなざしが優しい。
「……そ、んなに、わかりやすかった、か? 」
「わかんないっていうほうが鈍感ですー。」
焦ってどもりながら、浪の肩から手を放し、さらに密着体勢からこぶし一つ分開けて座ろうとした殤だが、もう遅い。額を押さえてため息をつくと、あきらめたように言った。
「隠すつもりはなかったんだが。俺は昔っから嫁のようなもんだと思ってる。」
「でしょー? 」
がたり、と音を立てて浪が立ち上がった。その顔は俯いていて見えないが、夕陽色の髪からのぞいた耳が赤くなっていた。そのまま席を外そうとする袖を、丹翡がにこにこしながら押さえた。
「浪さま。よろしければ温かいうちにお茶を召し上がってくださいな。」
「……っ、」
赤い手甲をつけたこぶしが、ふるふると震えている。
「俺はどこで誰に会ったって、嫁と紹介したいんだけどよ。」
洞窟で掠風竊塵、凜に会った時も、相棒と言うほかはなかった。
「そーそー。うちの浪ちゃんの往生際が悪くて、いつまでも認めようとしないから、相棒ってごまかすしかねぇんだよな、殤の旦那は。」
やることはやってんのによー、と小声で続けた琵琶の弦が、思いきりかき鳴らされ,
ぎゃん、と悲鳴が上がった。どこか悲し気に眉を寄せた浪に、丹翡が聞く。
「浪さまは、嫁はお嫌なのですか? 」
他のふたりも口を挟まず、固唾を飲んで返答を待っている。しばらくして、小さな声が淡い薔薇色の唇から漏れた。
「……嫁だと。守られるばかりのようで、情けない。」
「まあ、浪さまったら。」
口元を押さえて、丹翡が言った。
「わたくしも嫁ですが、守られるばかりなど思った事はありません。むしろ、夫には丹家相伝の剣の技を教え、鍛えて、共に家を守り抜いて行く同志であるべく、心して努めておりますが。」
「むしろ、守ってくれてんのは嫁さんのほうっすよ。正直、しがない農家の末っ子が護印師さまん家に入り婿だってんで、他の護印師からの風当たりも強かったんだけど、みーんな丹翡さんが退けちまったんだから。『わたくしの選んだ夫はこの方です』って啖呵きってさ。かっこよかったんだぜ。」
「もう、お忘れなさい! 」
目をぱちくりさせながらふたりのどつき合いを見ていた浪の腰に、立ち上がった殤が腕を回した。
「ま、いろんな夫婦の形があるってことよ。決まりきった型にはめて考えてるうちに、幸せが逃げちまうんなら、それこそ馬鹿げてると思わねぇか。」
「不患……、」
「だがお前が嫌なら、別に相棒でもかまわねぇ。関係につける名前なんぞに、たいして価値はねぇからな。俺とお前の心が、ちゃぁんとわかっていりゃ、それでいいんだ。」
浪は微笑んでいる丹翡の顔を見、隣でどつかれて苦笑いしている捲殘雲の顔を見、それから自分を優しく抱いている殤の顔を仰ぎ見た。
その時、扉を叩く音がした。下女に案内され、足音もなく部屋に入り込んできたのは、ここまで同行してきて、一度帰ったはずの銀髪の怪盗だった。
「おや、一同お揃いで。何か相談かね。」
「てめぇ帰ったんじゃなかったのか。また何の用だ。」
凜は右手で小包を掲げながら言った。
「帰り道で東離のうまいもの十選のひとつを売っている屋台があってね。西幽から来たばかりの浪殿に進呈したいと思ったのさ。友人の奥方の機嫌をとるのも、円滑な人脈造りには第一の基本だ。」
その場にいた浪を除く三人と、琵琶一面の視線が、胡散臭いほどにこやかに微笑む大怪盗に釘付けになった。琵琶が長いため息をついた。
「……浪よぅ。誰にだってバレバレなんだから、いい加減腹をくくってやれよ。」
その後。殤が東離で誰かに浪を紹介する時の台詞が、西幽でつるんでいた相棒から、西幽で娶った嫁に差し替えられたのは、いうまでもない。