先取りバレンタイン話
チョコレート売り場が賑やかなこの時期、自分用のご褒美チョコもさることながら、推しが推しに贈るのを想定してチョコを探す妄想お買い物も楽しい。殤さんは甘い饅頭を肴にして酒が飲めるひとなのか、それとも辛党でチョコはあんまり食べないひとなのか。食べるんだとして、浪さんにどんな感じのを貰ったら喜ぶんだろうか。
エロい妄想をさせて頂くのなら古来からあるあの、溶かしたチョコを浪さんの白い肌に塗りつけて、本体ごと頂きますパターンが王道で美味。殤さんにはちゅちゅ、ちゅるっと、ふよ乳首に塗って存分に吸っていただきたい。筆っていう便利アイテムを常にお持ちの殤さんだから、筆にとってたっぷりと盛ってもいい。尖った先端をくすぐるように動く筆と、ねっとりとしたチョコの感触で、感度のいい浪さんはめちゃめちゃ恥ずかしくなりながらも己の内に火が熾るのを自覚してしまう。は、は、と喘ぎ始めた口元に、チョコの塗られた殤さんの指が突っ込まれて、何かの動きを模すように出たり入ったりする。チョコの甘さと呼吸を遮られる苦しさ、ほぼ同じ動きで下肢の秘境に悪戯を仕掛けてくるもう片方の手指。こんな時だけは器用なんだから!と心の内で叫ぶ浪さんの心境を知ってか知らずか、次第に激しさを増す指遣いに、チョコよりも甘くどろどろに溶かされていく浪さんなのだった。
あるいは、コメディっぽくてもいいなぁ。自分にはコメディの才能皆無なので、どなたか書いて下さるのを待ちたい。
異国の行事、「化錬多淫」なる催しに必要な魔道具を発明した天工詭匠は、魔道具の効果を確かめる実験台として浪に狙いを定める。それは異次元の、ちよこれぇとふぁうんてん、という装置と繋がっており、操る者の意を汲んで先端から「ちょこ」を出せる奇天烈な筆だった。
そんな変わった魔道具であるとは露知らず、浪は渡された筆を使って夜なべに字の手習いをしようとするのだが、筆が勝手に暴走しはじめて……、という内容。
「殤、助けてくれ! 」
いや待て一体何が起こっているんだ、と殤不患は目の前の状況を二度見した。宮中襲撃で仲間になって以来、浪巫謠のそんな情けなくも頼りない悲鳴など殤は聞いたことがない。彼はいつも勇敢で、自陣が劣勢であっても粘り強く、弱音や泣き言を吐かずに道を切り拓いて行く漢だったからだ。
寝る前に何かしたためようとしたのか。隠れ家の一室の文机には紙と硯が置かれている。しかしそれらは手を付けられた形跡がなく、浪は自分の寝台の上に仰向けに寝転がり、手は宙で何かと格闘しているかのようにもがいている。暴れたのか薄い夜着の前はすっかりはだけて、腰のあたりでかろうじて帯で引っ掛かるだけの、あられもない姿になっていた。
「あ、あん! 」
幾度目か、浪の腕が空をきったところで、色の気配の乗った切羽詰まった喘ぎが部屋に響いた。
「なんつー声出してんだ。てかお前、何やってんだ。」
どきり、と心臓が止まりそうになりながらも殤が突っ込めば、手足のなさ故に主の苦闘に加勢出来ない琵琶が、甲高く叫んだ。
「どーしたもこーしたもねぇんだよ。墨に浸して字を書こうとしたらよ、いきなり筆が勝手に動き出して、先端から妙な液体を滴らせて浪の奴を襲い始めたんだ。」
見れば、確かに軸が竹で出来た細い筆が飛び回っていて、浪の体は茶色のどろどろとしたもので覆われている。
「おかしな筆でよ、さっきから浪の乳首やらへそやら、しつこくくすぐって来やがる。おまけに細くてすばしっこくて捕まらねぇときた。」
「あっ、しょ、殤! 早く、ん、この筆を、おとなしくさせて! 」
部屋に漂う甘い香りと、その香りよりも甘く引きずる語尾の、浪のかすれた喘ぎ混じりの声。
「おとなしくったってなぁ。叩き落しゃいいのかね。」
腰の拙劍に手をやれば、聆牙がはらはらした様子で見守っている。
「殤の旦那、間違っても浪の奴に当てないでくれよ。」
「はや、はやくっ、もう、おかしくなる! 」
一体どれだけの時間、筆に弄られ続けていたのだろう。得体のしれない泥にまみれた二つの乳首は尖りきって天をついていた。足をばたつかせた拍子に、下帯の隙間から完全に兆している浪自身の影が浮いて見える。
「んー、なんだか気持ちよさそうじゃねぇか。筆で乳首を擦られただけで、体がおかしくなりそうなのかい? 」
「んっ、変、この筆、変らからぁ……っ、熱、どろどろ、熱いのぉ、」
舌足らずになりつつも懸命に助けを求めた浪だったが、殤の眼には濁った彩度の光が宿る。劍は収めたままですたすたと寝台脇へ寄ると、あろうことか浪の乳首を中心に広がる茶色の液体を指ですくい、ぺろりと舐めた。
「きゃっ、」
「おー、甘い。」
「旦那、気が触れちまったのかい? 毒だったらどーするんだよ! 」
殤は平然として、人差し指を再度しゃぶった。
「浪が手習いに使うんなら、天命かあの偏屈じじいに貰ったもんだろうが。いくらなんでも身内に害のあるもんをくれる道理はねぇさ。怪しい魔道具ばっかり発明してると思ったら、こんなもんまで作っちまってるとはな。」
「殤! むぐ、」
抗議をするように声を上げた浪だったが、その唇に液体をまとった殤の指がこじ入れられた。暴漢相手なら噛み千切っているところだが、殤の大事な体の一部である意識が先だって、抵抗もできない。
「甘いだろ。しかもこれはあれだ。催淫作用のあるもんも入ってるな。」
「んーーっ?! 」
「なんだってー?! 」
驚いて硬直した浪の、制止の手が止まり。筆は大胆に、しかし先端は繊細極まりない動きで乳首をなぶった。
「いやっ、」
身をよじってかわそうとする浪の努力も虚しく、今度は下肢へ移動して、めちゃくちゃに殴り書きをするかのような激しさで浪の兆した陰茎をこすり立てる。
「あーーーーーーーーっ!?」
のけぞってびくりと大きく一度、跳ね返った体が小刻みに震え出す。
怪しい魔道具にもて遊ばれ、殤の目の前で達してしまった恥ずかしさと、助けを得られなかった混乱で浪の眼に溜まっていた涙が決壊した。
「……やっべぇな。」
口元を押さえながら殤は呻いた。白い肌をいっそう白くなまめかしく引き立てる、茶色の甘い液体と。醜怪であってもおかしくないのに、穢されてなお溢れんばかりの艶気と、困惑で歪んだ泣き顔の愛らしさ。目の前で展開されるなにもかもが殤の股間を撃ち抜いていた。
「ちょっと、だ、旦那、あんたまでなんで服脱いで、え、ええーー? 」
「こないだちょうどな、じじいとそんな話をしてたんだよ。異国にある化錬多淫とかいう祭りの話をさ。」
ベッドに上がりこんで舌なめずりしている殤を、信じられないものでも見たように、目を大きく開いた浪が見上げる。
「このどろどろが固まったのを、好いた相手にやったり貰ったりして楽しむ行事なんだと。」
なあ、俺も貰っていいか? とそんな風に首を傾げれば、馬鹿ぁ、と泣き声が返る。きっぱりと否定されなかったのは、もう既に、いじめられ続けた体の芯が、疼いて疼いて堪らないのだろう。閉じていた足が殤を迎え入れるかのように左右に開いた。
殤が宙に浮いている筆をつかむと、筆は嘘のように動かなくなった。その代わり、柄を握った主の指があやしく蠢く。なるほど、いろいろ使えそうだなぁ、と悪戯な顔がほくそ笑んだ。
「どこへ垂らす? また乳首か。お前の穴という穴に筆の先端を突っ込んで、中でぴゅーっと出してやるのもいいな。」
手始めに尿道あたりか。突き当りにびゅ、びゅっと当ててやったら、きっと気持ち良くてまた泣いてしまうだろう。
「いや、早く、中に来て……っ、」
覆いかぶさった殤の腕にしがみついてねだる浪だったが、その願いはそれから焦らし続けられ、泣き叫ぶまで叶えられることはなかったのだった。