殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

ゆっくりと絵の具を塗る

浪さんのお誕生日話、二十二日から三日過ぎても順調に(というのもおかしいけれど)滞っている。でも、ラフスケッチだったものに絵の具が塗られてきて、徐々に絵の全貌が見えてきたので、月末にはどうにかなりそう。例によってどう考えても誕生日に相応しくない物語。

自分のが進まないでいる間も、二十二日以降、他の方のファンアートや、小説作品や、霹靂公式Facebookの投稿などで殤浪・浪殤を沢山楽しませていただいた。殤浪作品を形にして下さる方々にはとにかく感謝しかなくて、お顔も知らない方たちを画面越しにありがたやと拝んでいる。

霹靂公式さんはまたやって下さって、ロックバンドを結成した設定で、殤さんになんと赤いギターを持たせてくれたのだった。茶色じゃなくて、赤ですよ赤。自分の中で浪さんが弾いてるのは赤いギターのイメージで、浪さんこそが赤いギターで、それを殤さんが抱えて啼かせる、というのはちょっともうヘビーな殤浪にほかならず。夜もそんな感じで腕に抱えて弾き倒されて指テクで散々泣かされちゃうんでしょう。本当にごちそうさまでした。素敵なお祝いフォトでした。

わたしはご本家様でも東離でも、霹靂社さんのサービス精神が本当に大好きで、それによって萌え妄想が生かされてるといっても過言ではない。日々生きる活力をありがとう霹靂さん。

それにしても無生さんはドラムなのか。自分の脳内現パロだと無生さんはサックスプレーヤーだったので、(アルトもテナーも吹く。クラシックじゃなく、ジャズのサックス吹き)妄想的に新鮮だった。(うちのドラムは殘凶さん。)音大のジャズ科の同窓で、浪さんはギター、無生さんアルトサックス、殘凶さんドラムで、好きにアンサンブル組んで選曲とアレンジする課題出されて何やろうかって考えて、「Take five」をやるとこまで妄想した。この三人にはブレーンで吟雷楽器屋店長の聆さんがついてるので、学生ながらハイレベルなアレンジを披露するのだった。

 

 

いわゆるコミュ障で他人との意思の疎通に苦労する浪と異なり、無生は元来話好きで、それなりに社会的なスキルがあった。音楽しか頭になく、しばしばぼーっとして講義の予定やレポートの期限をすっ飛ばす浪に、お節介ともいえる頻度で無生はフォローに回った。高校時代からの友人であるのも勿論だが、どこかこの男には、危なっかしくて放っておけない側面があった。
浪も浪で、甘やかしてくれる無生には良く懐いた。浪が気づけば課題や楽譜に、期限や注意書きが書かれた紫色の付箋が貼られている。
この「無生メモ」のおかげで、浪の学生生活は円滑に成り立っていると言っても良かった。

浪の世界の中で、叔父と聆の存在は別格だったが、そこに無生と、後にあとふたりが加わることになる。

一人は捲殘雲。二学年上のボーカル科の学生だった。残るひとりは殘凶という同学年の、ドラムを叩く男だ。

「トリオで課題? 」
「選曲はなんでもいいそうだ。ただ、付け焼刃のセッションより完成度は問われる。」
「曲の難易度を上げてもいいが、崩れたら採点が厳しいってことか。」

コミュニケーションの取りやすい人間と組むか、腕のいい人間と組むか。
勿論、前者が壊滅的でも後者において学年一と謳われる浪の人気は高く、先ほどから人だかりに囲まれている。
「俺とやろうよ。」
「えー、うちも浪くんのギターと演りたいんだけど。」

「無生! 」
「おっと。」
立ち上がり、駆け寄って来た浪は、そのまま殺無生の胸に飛び込む。大勢の人間に一度に迫られ、困惑しているようだと見てとった。教室中の視線が自分達に集まるのを見て、無生は咄嗟に背を向け、自分の長身で浪を隠した。
「あー、悪いな、皆の衆。」
殘凶が自分の傷のある鼻先をかきながら、説明を始める。
「俺ら三人で組むって決めてんだ。ギター弾きは他を当たってくれ。」
「殘凶……、」
無生の腕の中で、浪が不思議そうに呟く。その耳元で小声で説明する。
「俺らなら余計な気兼ねも必要ない。サックス、ギター、ドラムでバランスもいい。」
「……ありがとう。」
「おう。楽しくやろうぜ。」
答えながら殘凶は、この浪巫謠というギター弾きの学友の前途が心配になった。天才的な腕と比類なき感性を持ちながら、まず人間関係を円滑にやれなくて大丈夫なのかと。
一度弾き始めればミュージシャン同士、音で対話することはできる。ギターを持てば浪は雄弁だった。けれどまず前段階で躓きそうだ。音楽には飲みコミュもコネも上下関係も大事だというのは、学生だって知っている。
放っておけないな、とそう思ってしまった。殺無生がお節介にも浪の授業のレジュメやレポートを紫の付箋だらけにしているのも頷ける。
それから、殺無生がとっていない講義で浪の世話をするのはなんとなく殘凶の役目になっていた。

細身でたおやかな外見の浪と、ドラマーゆえに上半身を鍛え上げている強面の殘凶のコンビは、密かに美女と野獣と呼ばれることになる。
ちなみに殺無生と殘凶は揃って長身のため、並ぶとツインタワーと呼ばれていた。年配の講師などは浪を挟んで三人並んだところに出くわすと、ゴールデンブリッジと呼んだ。浪も決して背が低くはないのだが、バスケ選手並みに大きい二人に挟まれると、肩幅の狭さもあって小さく見えてしまう。演奏はともかく君達は舞台映えするねぇ、とある講師は良くわからない褒め方をした。

トリオでの課題決めは、殘凶が想像していた以上に揉めた。殺無生が上げる幾つかの曲に、浪がまったく首を振らない。
クラシックの楽譜だと、作曲家がある程度メインになる楽器を決めている。ホルンの為のなになに、バイオリン協奏曲、等、これが主役の楽器ですと克明にされている。ジャズでは大まかにコード進行は決まっているが、その間にどの楽器のソロが入るかはある程度自由だった。自由とはいっても学生の課題である。それなりに原曲への忠実さが求められるし、アレンジしたところでそれが原曲の持ち味を損ねるものであってはならない。まだ狭い脳内ライブラリの中から、短い課題時間の範囲内で三人それぞれに見せ場がある曲を選ぶのは難しい。他の組に尋ねてみれば、ソロをメインひとりに定めて残りふたりは伴奏に徹するという答えも返ってきた。殺無生の案もそうだったが、浪はそれが気に入らないらしい。彼の提案曲がギターメインのものだったからだ。
「いやそもそもよ、ご両人。規定の演奏時間内でドラムソロまできっちり入れんのは難しいだろう。」
「そうだ。練習時間も考えたら、曲選びに日にちをかける余裕もないのだぞ、浪。」
チームごとに割り当てられる防音ブースの使用時間も決まっている。ふたりがかりで指摘され、浪はうつむく。
「……それでは殘凶が一緒にやってくれる意味がない。」
「うん? 」
「せっかく、一緒なんだから。同じがいい。」
たどたどしく紡がれるその幼い言葉の意図を汲み取れるくらいには、殺無生は浪の側にいたし、殘凶はコミュ力が高かった。
「あーもう、可愛い事言って困らせんな。しょうがねぇ姫さんだなお前は。」
太い腕を伸ばしてくしゃりと夕陽色の頭を撫でると、殺無生も苦笑いする。結局無生は浪に甘いのだった。
「あとはアレンジでそれぞれのソロを等分にするしかないな。」
「あれどうだ。テイクファイブ。ドラムソロ挟んで前後にサックスソロがあるだろう? 前半のサックス部分を無生がやって、後半はギターで浪が弾く。ソロパート以外の時は各自ピアノパート弾いてりゃいいんじゃないの。」
殘凶の提案にがばっと浪が顔を上げる。みるみる目が輝いていくところをみると、想像した音が脳内で流れ始めたようだった。
「吹けるか、無生。」
「譜面通りに吹くだけなら中学生でも出来る。音楽性を問わなければな。」
一番有名な原曲を思い浮かべた殺無生はそう答えた。アルトサックスの甘く色気のある抜けた音は、表現力を必要とするだけありハードルが高い。加えて殘凶のドラム技術も未知数だ。小粋で洗練された大人の曲というよりは、粗削りなパワー系の印象になりそうだった。
「今のテクじゃあのレベルは敷居は高いがな。他に思いつかないなら、それなりにやるしかねーだろ。」
「大丈夫。」
きっぱりと浪が言い切る。編曲の才能がある浪の耳には、既に三人の音のアレンジと、完成形が聞こえていた。後はそれに近づけて行けばいい。