特典内容が
西幽玹歌の円盤の、各社の特典内容、全容がようやく全て明らかになった。ニトストで太歳さんの色紙、アニプレックスでミニビジュアルブックがつくほかは、見事なまでに白浪さん祭り。アニメイトさんの缶バッジ2個セットが、木偶様の白浪さんと太歳さんだといいなぁと思っていたんだけれど、どちらも白浪さんで、CP推しの人間としては残念だった。なんというかなんというかそういうところ、本当に。モノを買わせるのには商機というものがあるが、どうでもいいのだろうか。
たぶんグッズの画というのは、静止している木偶様にポーズを取らせて撮影してるのだと思うのだけれど。本編で実際に動いている木偶様が持っている美しさとは全然違うと思っていて。あのお人形は、そのままでも綺麗だけれど、操偶師さんが腕を通している時が一番美しいんだよ。だから、グッズに使われる静止画よりも本編の動いているところを切り取った画像のほうが、間違いなく綺麗な白浪さんがいる。映画の白浪さん、赤浪さんには似ていなかったけど、ほんと目が覚めるほどの美人さんだったもの。白い清楚なお衣装と相まって、薄幸のヒロインぶりは作中随一だった。
てことを考え合わせると、特典はミニビジュアルブックがいいのかな。さすがに特典目的で複数買い求める財力はないので、ひとつ選ぶとしたらの話で。
11月1日に開催予定だったワンフェス(秋)が、なんと、中止になってしまった。三期放映前後だし、きっとニトロブースでは東離の新キャラのお披露目あるよね、なんて楽しみにしていたのに。春のアニメジャパンがなくなったから、ワンフェス(秋)でもしかしたら白浪さん達の展示があるやもと一縷の望みをかけていたのに。半年近く先のイベントも中止になるのか。なっちゃうのか。しかたないけど、わかっているけれど、やりきれない。
遠くて行けないだろうなと思っている関西の布袋劇オンリーも、そういえば11月。どうかそちらは無事に開催されますように。
中止の報を聞いてテンションだだ下がりになったので、自分をあげるためにしょーもない妄想をする。
◇◇◇◇◇
鮮やかに江湖を駆け抜けて信じる者の為に散った、一輪の紅の花があった。
浪巫謠が目覚めると、そこはピンク色のファブリックが結集された、どう見ても女子高生の部屋だった。
鏡に映るのは赤毛の髪を縦ロールにした、絵にかいたようにお嬢様然とした女の子。
豪奢な屋敷でかしずかれている彼女だが、使用人の噂話を耳にすると、普段の自分が贅沢、我儘、高慢ちきと、ありとあらゆる罵詈雑言を並べられているお嬢様だと知る。
「俺は、俺は一体どうなってしまったんだ! 」
「落ち着けってんだ、浪巫謠。いや、今は浪ふようか。」
「その声は?! 」
懐かしい声で語るのは彼の琵琶、ではなくて、愛器ストラディバリウス、お値段推定一億円のヴァイオリンだった。
「ようやく思い出してくれたんだな、浪。お前の記憶が戻るまで、オレは、本当に……、」
どれだけの苦労があったのだろう。おいおいと泣き出してしまったように見えるヴァイオリンの、元の姿を思い出して、赤毛の縦ロールの少女はつるぺたな胸にぎゅっと抱きしめる。
「また、お前を弾けるのか。面妖な世界だがそれだけはありがたい。」
「それなんだが、心を鎮めてよく聞いてくれな。……お前は死んで、この世界に転生した。いわゆる世間一般でいう、悪役令嬢としてだ。」
琵琶からヴァイオリンになった聆牙が、信じられないようなことを言う。
「この俺が……、悪なのか。」
◇◇◇◇◇
西幽学園に君臨する悪の女帝。富豪のひとり娘に生まれ、蝶よ花よとかしずかれて育ち、手に入らないものは何もない。自然、振る舞いも傲慢になり、取り巻きに賛美されて自分の本当の姿が見えず、他者を蔑ろにして憚らない。
浪ふようの転生後の姿というのは、そういう存在だった。聆牙に説明されるうちに、少しずつ、今までの人生を思い出しては青ざめる。
「……穴があったら、掘って広げて埋まりたい。お前、土をかけてくれ。」
「ただの楽器に無茶言うなよ。それに、迂闊に汚さないでくれ。これでも時価一億円なんだぜ。」
「恐ろしい金額なのだろうな。」
しみじみと浪が言うと、どこか恐ろし気に楽器は答える。
「この家にとっちゃ、はした金さ。」
「楽の道は、金子の嵩で極められるものではない。」
「あー、それでこそオレの浪だ。嬉しくて涙がちょちょぎれるぜ。」
「それよりも。これをなんとかしたい。」
「これって? 」
顔の脇から重く垂れ下がる、豪奢な巻き髪を引っ張りながら浪はぼやいた。
「メイドに毎朝一時間もかけて巻かせている髪を、どうしようってのかい。まさかばっさりと、」
「切りはせん。髪はいつの時代でも女の命というだろう。演奏の邪魔になるから編んでしまいたい。」
◇◇◇◇◇
翌朝。専用の送迎車で登校してきた金持ち令嬢、浪ふようは、取り巻きにぐるりと囲まれてひっと体がこわばってしまう。前世での彼女もとい彼はコミュ障で、他人との交流に免疫がないのだ。彼の世界にいたのは心を許したごく数人だけ。
けれどもふようが驚いて足がすくんでしまっているように、周りもまたふようの変化に驚愕していた。が、面と向かってはお愛想を言い、陰でこそこそと噂をする。
「まあ、どうなさったの、ふようさま。いつものふわふわなお美しい髪を、三つ編みに結われてしまって。それもまた清楚ですけど。」
背に三本の三つ編みを垂らし、飾り気のない白いカチューシャをつけた浪は、いつものキューティクルぎらぎら、縦ロールがっつりの令嬢スタイルからはかけ離れており、比べれば貧相に見える。
(「えー、なにあれ。いまどき三つ編みなんてダサ過ぎじゃない。」)
(「どうしちゃったの、ふようさま。急におかしくなっちゃったんじゃない。」)
転生しても鋭利なままの五感が、あちこちで自分の容姿を見て囁く声を拾う。
うわべだけの笑顔とお世辞の裏では、ひどく嘲られる。
(……そうか。俺の取り巻きは皆、心の音が濁った者ばかりなのか。)
周囲の人間は、自分を映す鏡だという。周りの者の音を聞くだけで、浪には自分がこの世界で、今までどんな風に生きてきたのか理解できた。
気分が悪くなり、取り巻きがついてくるのを断って早足に歩き出す。と、体に衝撃が走った。前をよく見ていなかったせいで、角から出て来た人物にぶつかってしまったのだ。
「おっと。気をつけろよ。」
「!?」
白髪まじりの長い黒髪の、ジャージを着た見覚えのあるその姿は。
「しょう、先生。」
「……なんだ、浪か。」
西幽学園の体育教師、殤ふかん。浪には、聆牙の説明を受けたときから、今まで生きて来た悪役令嬢ふようとしての記憶が、浸透しつつあった。
義侠心が強く、ざっくばらんで生徒にも人気がある教師だ。ひそかに想いを寄せる女生徒も少なくない。ふようも彼に惹かれ、学園の理事長に賄賂を渡して、無理やり自分のクラスの担任にした。剣道部の顧問を辞めさせ、かわりに自分のいる管弦楽部の、お飾りの顧問に据えた。自分のいうことを聞かなければ学園から追い出し、二度と教職につけないようにすると脅したのだ。ひどいにもほどがある。
彼は、ほとほと嫌そうなしかめ面で浪を睨んでいた。その視線に、心を抉られるような痛みが走った。
そうされても、しかたのないことを「ふよう」はしてきたのだ。
それでも。ぶつかってきた女生徒を、自分を脅迫して支配しようとする高慢な少女を。殤は受け止めずに、地面に転がしたりはしなかった。彼は教師だった。
(ああ、やはり、優しい。)
優しく、心根の美しく、まっすぐな音をもった男。だがもうその瞳を、浪は直視できない。義務以外でその腕が、自分を抱き留めることなど絶対にないと、気づいてしまったから。
「……ご迷惑を、おかけしました。」
「え、ええ? 」
深々と頭を下げて走り去る浪を、殤は唖然としながら見つめる。自分からぶつかってきては、痛いのなんだのと大騒ぎし、デートしろだの付き合えだのと無理難題を吹っ掛けてくる厄介な令嬢である。それが、いつもの反応とまったく違う。高慢を絵に描いたような彼女に、一体なにが起こったのか。
「……三つ編み、可愛いじゃねぇか。」
思わず口からこぼれた台詞に、何考えてんだ俺はとツッコミを入れる。散々痛い目に合わされて来た令嬢に対して、思う感情ではない。
◇◇◇◇◇
この妄想、ちょっと面白くなってきたので、しばらく続くかも。