披露宴の夜 最後の部屋
自分達に宛がわれた寝間の扉を開けると、当然だがそこには寝台があった。
寝巻に着替えて、まあすぐに脱ぐのだろうが、さて昼間からずっと待ち焦がれていたお楽しみの時間である。寝台に上がろうと覗きこんで、不患と巫謠は二人とも固まった。
「百歩譲って、床の周りに派手な布が垂らされてんのは許せるな。」
「ああ。」
「百歩譲って、かなりでかい床を用意してくれたのもありがてぇな。」
「ああ。」
寝台のふちに腰を掛けて、巫謠はこくりと頷く。
「だが、寝具がねぇときた。さてどうする。」
「別になくてもかまわんが。慣れている。」
さすが巫謠は野宿経験者である。確かに、岩の隙間でも寝たし、木の幹が寝台代わりだったこともある。しかし、今日は記念すべき披露宴の夜なのだ。屋根も壁もある家で、なおかつ必要十分な物資もあるし、同じ自分達ではあるが仲間も他に四人いる。
「ちょいと聞いてみるとするか。」
しかしながらねん殤に聞いたらなんだか叱られそうな気がしたので、不患は殤殤と浪浪のいる寝室へと急いで向かった。
殤殤に言われたとおりに倉庫部屋へ行けば、そこには敷き布団に枕、掛物と一揃いの用意ができていた。ふたりで両手いっぱいに抱えて廊下を往復して支度をし、整ったところで寝台に潜り込む。
「なんだか、夢みてぇだな。」
手足を伸ばして、殤不患は呟いた。
心から信頼できる相手と、式を挙げ。祝宴を開き。まっさらな寝具で新婚初夜である。
巫謠を待っていた日々は、短いようで長かったのだと、そして今、ようやく巫謠はそばにいるのだと、しみじみ感じられるけれども。有難すぎて、不安にもなるのだ。
「夢でも良かろう。こうして、今、共にあるなら。」
答えた巫謠は、次の瞬間、どさりと寝具に押し倒されていた。
「感じさせてくれねぇか。これが夢なんかじゃねぇって。」
「いくらでも、受けて立とう。だから、俺の中で存分に吐き出せ。信じられない心も、お前を揺さぶる不安も、全て俺がこの身に吸い取ってやる。だから……、」
(忘れっぽくてもだらしなくてもいい。お前らしくいてくれ、不患。)
(そのためなら、どんなことをしても、守るから。)