雷鳴の日にあなたと ラスト
浪浪は耳が聡い。
眠っていても、周囲の気配を感じられる。
無理だと泣いても許しを請うても執拗に昂りを身の内に焼きつけられて、体はどろどろのくたくたになっていたとしても。耳だけは、もちろん普段に比べれば十分の一も働いていないけれども冴えていて、だから、わかった。
(な……に、だれか、いる。)
生まれたままの姿にだるい腕で寝具を引き寄せる。
敵ではない。ひとりはねん殤だろう。一番初めに家主の元へ来たねん殤はきびきびとしていて、家主の所用なども苦にせずこなしている。ある意味、風来坊の殤不患の、世に対する誠実さや魔剣を収集する使命に忠実な部分を切り取ったような存在だった。
隣でいびきをかいて眠っているのは、今朝方まで起きていた殤殤。ひとに関わりたくないといいながらなんだかんだと世話焼きである。が、今回のように強引な一面も持っていて、関わるまではそっけないが、関わってしまった相手にはむしろやり過ぎるぐらいやってしまうのが殤殤だった。
(音。音は、きれい。)
◇◇◇◇◇
(※衣装というか、お人形の関節がでている写真があります。)
「おー、来たな。」
「ゆうべはおたのしみでしたね、ってぇ台詞はこういうとき使うのか。」
「野暮なツッコミはやめてやれ、俺。」
がばり、と浪浪は身を起こした。あちこち体が痛むが、目の前の景色になにもかもが消し飛んでしまう。
「え、え? 」
「かーわいそうに。声もでねぇぐらい驚いちまってるぜ。」
「昨夜出し過ぎたんだろ。家中に響いてたからな。」
「まさに魔性のよがり声。聞いた男は腰砕けってもんだ。早く俺も嫁さんに会いたいぜ。」
軽口を叩き合っているねん殤と、もうひとり。
「……信じられない、真似をする。」
かすれた声で呟いて、呆然と見やった先で、三人目がばちりと片目をつぶって見せた。
「ゆうべのそいつは絶倫だったろ。俺が来て、自分が浪浪だけの亭主って確定したもんだから、どうにも欲が抑えられなくなっちまったのさ。初夜だってのに容赦ねぇな、俺も。」
あけすけな物言いは前ふたりよりも俗っぽい。日和見と見せかけ、棘、というか、江湖で生きる為に突っ張ったものを隠さない匂いがする。
きっとこの殤と相性がいいのは、過激で極端で、浪浪よりも大胆不敵な巫謠なのだろう。応える言葉も見つからず、おろおろとしている自分ではなく。
「こいつにちょっかい出すのはやめろ。赤ん坊みたいに素直で純粋なやつなんだ。」
隣の殤殤が首を竦めている浪浪の頭を撫でる。
自分だけの、亭主とさっき三人目は言った。それでは。この一緒に暮らしてきた殤殤は。視線で問いかければ、優しく頷いてくれた。
「そうだ。お前と同じ時を刻んでいく、正真正銘お前だけの俺だ。今までも、これからもな。」
◇◇◇◇◇
「ま、嫁さん達が来るまで、たまにはお相手願うぜ、浪浪。」
「俺達はそっちの殤殤ほどしつこくはしないからな。」
「(……まさかの、4P……? )」