殤浪@サンファンドットコム

【Attention!】こちらはBL要素・18禁の内容を含みます。どうぞご注意下さい。Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 のキャラクターのカップリング推しの管理人、律による、腐向け二次創作記事中心のブログとなってます。

あの鳥達のように 1

殤浪ペア紅茶の次はペンギン見物デートですか、東離公式Facebook様はどこまで殤浪好きにお優しいのだろうか。

ペンギン、ああ、めちゃくちゃ意味深。気づかないうちに寒くなってきているのを表すのに、どうしてあそこでペンギンを起用したんですか霹靂さん。ペンギンといえば自然界でも有数の、同性カップルの多い種族なのに。ペア紅茶にペンギンの隠喩ですよ。僻地沼の住人としては、邪推しないわけがない。

紅茶もちょっと落書きしたけど、まだまだ見えた景色は尽きないので、あの紅茶だけで何通りも殤浪ができあがるのに。放映が四月まで延期とはいえ、定期的に美味しい話題を下さる東離公式様にはなんとお礼を申し上げていいのか。今の時代、ファンがモチベを維持するには萌えが必要だとわかってらっしゃるんだよ。霹靂さんはエンタメのプロフェッショナルだよね。本当にありがたい。

公式では殤さんと赤浪さんのデートだったけど、まずは太歳&白浪現パロで。

 

◇◇◇◇◇

 

以前よりもモデルの仕事が減少した代わりに、Instagramを通じて写真撮影の依頼が増えた太歳は、撮影の仕事にその日予定のなかった白浪を誘った。

モデルのアルバイトの他に、兄のレコーディングにバックコーラスで入る機会の増えた白浪とふたりで出かけるのは久しぶりで、隣家同士、半同棲のような暮らしをして長いというのに、ガラでもなく新鮮な胸の高鳴りを覚える。それは白浪も同じらしく、デニムにカーキのフードジャケット、カメラと三脚入りの袋を担いだ太歳の姿を上から下までみて、視線を逸らしてため息をついていた。

「なんだ? 」

「お前は、ずるい。」

「なぁにが。……ええ? 」

洒落っ気のない、むしろ目立つまいとするように地味な服装をまとった太歳だが、隠しきれないオーラが滲み出ている。ましてや、惚れた欲目で見るならば、白浪のときめき度指数も上がろうというもの。照れ隠しのように背中をぱしりと叩かれ、理不尽だと口を尖らせる。

そういう白浪も、いつか太歳が良く似合うと絶賛した白のダッフルコートを着て、長い髪をハーフアップにまとめた姿は、長身で清楚なカレッジガールにしか見えない。太歳が、兄がガレージに置き去りにしている黒のSUV車の助手席のドアを開けてやると、どこかそわそわした様子で乗り込んでいる。

「車、珍しい。」

「あぁ、機材もあるし、それに……。」

太歳はそこで口ごもり、黙ってエンジンを始動させた。

近場へ出かけるなら、それこそバスや電車のような公共機関を使う。行き先を聞いていなかった白浪も、車ならば遠出だろう、と勝手に考えていた。それも、30分後にあっさりと目的地についてしまったことで覆された。

 

辿り着いた先は、同じ市内にある水族館だった。白浪はまだ子供の頃に、隣家の兄弟に兄共々連れられて遊びに来たことがある。水槽の向こうで泳いでいたカラフルな熱帯魚が綺麗だった覚えがあるが、残っている記憶はその程度だった。兄にはあまり良い思い出が残らなかったらしく、それ以降水族館を好まなかったので、来たのは一度きりだった。

「懐かしい。どうして、ここに? 」

「水族館の素材が欲しいって言われててな。手近で事前に三脚持ち込みと撮影許可がもらえたのがここだった。」

買ってきた入場券を手渡しながら、太歳は説明した。

「まずはぐるっと順路を一周して、場所のアタリをつけてから撮る。」

「わかった。俺のことは気にせず、好きなところで止まれ。」

こくりと頷いた白浪に、太歳は頭を掻いた。

「まぁ、その、せっかく来たんだ。ちょっとは楽しもうぜ。」

お前、熱帯魚好きだったろ。そう言って先に歩いて行く太歳に、白浪は目を丸くした。

「……よく覚えていたな。」

「そこの水槽の周りだけじーっと、五分も十分も夢中で見てたからなぁ。」

「そんなに? 」

「本当はもっと連れて来てやりたかったんだが、お前の兄貴が嫌がったんで、いつも候補から外されてたんだ。」

苦笑しながら、太歳はライトアップされた最初の大水槽の側で立ち止まる。自分の兄は隣家の兄弟でも同じ兄の立場でもあった紅浪を、無自覚に贔屓していた気がする。放っておかれがちな白浪の手をとって歩くのは、いつも太歳の役目だった。

「手でも繋ぐか、昔みたいに。」

「ば、馬鹿言うな。」

手どころか、もっと深い場所で幾度も繋がり合った仲だというのに、白浪はくるりと背中を向けてしまう。

休日でなく平日の、閑散とした時間帯を選んではいるが、それなりに人がいる。そんな中で手を繋ぎ合って楽しめるほど、白浪はこなれていない。

「……ごめん。」

ふたりで仕事先やコンビニやスーパー以外に行けるのは、本当に久しぶりで。折角仕事のついでに誘ってくれたのに。白のダッフルの肩を揺らして俯く年下の恋人に、あえて明るく太歳は言う。

「気にすんな。それより、熱帯魚見に行こう。あっちにいるらしい。」

備え付けられた館内案内のパネルを指さしながらコートの袖を引けば、白浪も気まずさを隠しながら頷いた。

 

◇◇◇◇◇

 

子供の頃は存在すら気づかなかった、詳細に生態を説明するパネルを眺めながら、ふたりはのんびりとした歩調で館内を進んでいた。最初は沈んでいた白浪も、様々な海の生き物を眺めているうちに気分が高揚して、笑顔を見せるようになっていた。

水槽のあるゾーンを抜ければ、屋根と壁のない広場のような場所へ出た。低い池の中に、黒と白をまとった生き物が泳いでいる。

ずっと魚類や貝類を眺めてきた眼にはやや違和感のある生物、鳥類であるペンギンの群れがそこにはいた。

「鳥なのに、飛べないんだな。」

「あの羽じゃ無理だろ。」

観覧用の手すりに凭れて、白浪は隣に佇む太歳に呟く。彼が知っている大空を羽ばたく鳥とは、余りにもかけ離れている姿に、なんとなく自分が身を置く位置を思い知らされるような気がした。

「……俺みたい。」

「うん? 」

「モデルも、歌も。中途半端。」

アルバイトで続けている雑誌モデルの仕事も。兄にそそのかされて始めた、バックコーラスの仕事も。己に片方に専念し大成するだけの才はないと、白浪は思っていた。

ひょこひょこと歩いているペンギンたちは愛らしいが、どこか胸に苦いものがこみ上げてくる。

太歳はそんな白浪の顔色を見て、静かに告げた。

「そういうのは半端もんとは言わねぇよ。二足の草鞋を履くってんだ。」

「……二足? 」

「二足履いてりゃ片側駄目になっちまっても、杖に片足で針の山を無事に登れんだろ。」

中途半端な高度で飛んでいてメシが食えなくなっても、うまくいかなければもうひとつの特技、泳ぎで食えればいい。生きて行けさえすれば、なんとかなる。

飛距離や高度で叶わないなら、違う道を。長い進化の過程で取捨選択を繰り返し、生き残って来た鳥の生きざまの答えが、時を経てふたりの目の前にあるのだと太歳は思う。

「この鳥も、そうやって生きてきた証を見せてくれてんじゃねぇのか。」

太歳の言葉に、白浪の心が震える。

「無駄じゃ、なくて? 」

「あいつらにとっちゃ、誇っていいものだろうよ。」

あの小さな、用を為さなくなった羽にも、大切な意味があると。

「俺がカメラ始めたのも、好きなことして食う為だからな。ま、食える方をやってったらいいんだ。」

ペンギンみたいに、と遠くを見つめる年かさの恋人の言葉は、白浪の胸深くまで染み込み、よぎった暗い影を払拭した。

だから貴方と言うひとは、己にとって導きの星なのだと。人目を気にしていたのも忘れ、白浪が頼もしい体に半歩進んで肩を寄せれば、ぐいと肩をつかんで引き寄せられた。

「お、あのペンギン、雄同士でペアリングして卵を温めてるんだって書いてあるぜ。」

ペンギンの生態に詳しい者でなくとも、ペンギンの同性愛的な行動は有名な話だった。

促されて白浪が追った太歳の視線の先には、巣を模したらしい人工的な小部屋の中で、もぞもぞと動いている二羽のペンギンがいた。傍のフリップには『シャン&ラン、ただいま抱卵中』とあり、その下に二羽のプロフィールが詳しく書かれている。

ふいにそのうちの一羽がぐい、と頭をもたげて、白浪の方をまっすぐ見つめて来た。奥ではもう一羽が卵を抱いている。まるで後ろ手にパートナーを庇うような、自慢げにどや、と肩をそびやかすような風にも見えて、ふ、と白浪は微笑んだ。

翼を持ちながら鳥らしくない、泳ぎながらも魚ではない、中途半端な存在。それでいてなんと、勇ましくも堂々とした振る舞いか。

 

ひとと少し形の違う自分達の恋を、まったく引け目に感じたことがないとは言わない。常に人目を気にせず、堂々と振る舞う太歳を羨ましく思う反面、そんな太歳に自分が相応しいかと、秘めた片恋のままでいれば良かったと、白浪は何かにつけて考え込んでしまう癖がある。

(あんな風に、パートナーのために、なにもかも怖がらないでいたい。)

祈るように目を閉じた白浪の耳に、ジッ、という微かな駆動音が届いた。振り向けば、太歳がペンギンではなく白浪に向けてカメラを向け、シャッターをきっていた。

「え? 」

「悪いな。すげえ別嬪さんがいたもんで。」

一体いつの間にカメラを取り出していたのだろう。そう困惑する白浪の肩を叩き、誤魔化すように太歳はすぐさま被写体をペンギンに戻した。